中国におけるインフレの性質と反インフレ策

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2007年10月12日

  • 児玉 卓
最近、中国の物価上昇が目立っている。特徴的なのは、豚肉に代表される食肉の寄与が著しく高いことである。今のところ、他の財・サービスへの波及はあまり見られない。とはいえ、中国政府としては放っておくことも出来ない。物価の上昇、特に食料品価格に牽引された物価の上昇は、実質的な所得格差を助長させてしまうからである。

反インフレ政策の王道は金融引き締めである。しかし中国では金利操作の有効性に深刻な疑問が投げかけられている。金利引き上げは、外貨の流入を加速させ、結果として引き締め効果を台無しにしかねないという問題もある。

そこで価格統制的な行政指導、或いは最低賃金の引き上げなどが行われる。前者の価格統制は、当該品目の需給を改善させてインフレ圧力を低減させるというメカニズムを損なう。高い価格が生産意欲を刺激し、供給が増加するというルートを閉ざすからである。規制の存在自体が生産をディスカレッジすることもありえよう。しかも、国内販売から輸出へのシフトを防ぐために、輸出規制なども必要になるかもしれない。気がつけば、規制が規制を呼ぶということになりかねない。

後者は、言うまでもなく、低所得者の実質購買力の低下を相殺するための措置であるが、反インフレ策ではなく、インフレ促進策である。限られた財にのみ見られた価格上昇が、賃金引上げを通じて、広範な財・サービスに拡散する可能性が生まれる。それが再度賃金の引き上げを催促することになれば、おなじみの賃金・物価のスパイラルである。

繰り返せば、ミクロ政策や行政指導が、こうした問題をはらむからこそ、反インフレ策の王道は金融政策なのである。そして、それが緩やかなものであれ、物価と賃金のスパイラルが始まれば、有効な金利政策の不在のコストは加速的に拡大する。

中国の物価上昇の範囲がどの程度拡散するかには、十分注意しておく必要がありそうだ。

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