抵抗力増しつつあるアジア

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2007年10月09日

  • 由井濱 宏一
米国のサブプライム問題再燃の影響を受けて急落したアジア株式市場は、8月中旬にボトムをつけると急反発し、堅調な展開となっている。香港やシンガポール、韓国などの主要市場はボトムから20%前後上昇し、欧米市場を上回る力強い反発力をみせつけた。反発のきっかけは表面的には米FRBの果敢な利下げ実施で、世界的な信用収縮懸念が遠のいたことだが、底流にはアジア経済の強固なファンダメンタルズや金融システムの安定性が改めて評価された点がある。

アジアNIEsは06年以降、四半期ベースでみて前年比で5%以上の高成長を継続しているが、この成長の原動力となってきたのは個人消費や設備投資といった内需である。特に香港やシンガポールでは失業率低下、賃金上昇が国内消費を拡大させ、GDP全体の成長への個人消費の貢献度は高い。輸出の貢献度も決して低くはないが、外部環境の変化に左右されにくい自律的な成長軌道を辿っているといえる。一方で、アジアの主要金融機関の米国サブプライム関連分野(同ローンや関連証券化商品)へのエクスポージャーは限定的でアジアの金融市場における信用不安の発生の可能性は極めて低く、金融機関の収益への影響はほとんどないと推測される。アジアの外貨準備高も中国の1兆3000億ドル(07年6月末)を筆頭に史上最高水準に達しており、資本逃避による急激な通貨安に陥る可能性もない。これらの点が海外投資家のアジア地域への信頼度を高め、同地域への資金回帰を促しているといえよう。

かつてアジア経済は日本を始めとして米国がくしゃみをすると風邪をひく(もしくは肺炎になる?)と言われるほど米国経済への依存度が高く、外部環境の変化に対する脆弱性が指摘されてきた。しかし、ここに来てその状況に変化が見え始めていることも事実である。米国需要、たとえば米国の個人消費動向とアジアからの輸出の伸びとの関係にはこれまでかなりの連動性が見られたが、ここ数年来はそうした関係が必ずしも当てはまらなくなっている。サブプライム問題も影響して07年半ばあたりから米国小売売上高の伸びは緩やかに減速しているがアジアからの輸出(香港、シンガポール、韓国、台湾)の伸びはコンスタントに前年比で10%前後の伸びで推移している。米国以外の地域(新興国やアジア域内など)の需要拡大に伴う構造変化が起こっている可能性がある。米国が景気後退に入るような事態になれば話は別だが、緩やかな景気減速にとどまるのであれば、先に見た内需の強さもあいまってアジアの高成長→株高の流れは継続しよう。

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