さよならサブプライム

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2007年09月28日

  • 成瀬 順也

米国株は急反発。NYダウは史上最高値目前に迫った。サブプライム住宅ローン問題が、大幅利下げと証券決算で、クライマックスの前半戦を無事通過したからだ。

9月18日に大幅利下げが行なわれた背景は二つ。一つはFOMC声明文にも「金融市場の波乱が景気全般に与えうる悪影響を抑止し・・・」と書かれているように、金融市場の波乱を止めるのが目的であること。市場にポジティブ・サプライズを与えなければ、波乱は止められない。もう一つは、FRBが依然として「インフレリスクが残っていると判断」していること。逆説的に聞こえたかもしれないが、来年に向けて金融政策のフリーハンドを確保するため、大幅利下げを行なって短期間で終わらせたいのであろう。

証券各社の6~8月期決算は、ゴールドマン・サックス(79%増益)、リーマン・ブラザーズ(3%減益)、モルガン・スタンレー(17%減益)、ベアー・スターンズ(61%減益)と明暗分かれた格好。ただし、各社ともサブプライムを含むクレジット関連での損失を7~15億ドルずつ計上したにも拘らず、株式関連のトレーディングや投資銀行業務が好調で、黒字を確保した点はポジティブ。これで業界全体の巨額損失懸念は薄れた。

クライマックスの後半戦は、追加利下げの有無(10月末の次回FOMC、場合によっては10月5日の雇用統計直後の緊急利下げ)と、銀行の決算発表(10月15日に始まる一週間が中心)。ここさえ乗り切れば、サブプライム問題は脇役に追いやられ、米国株は明確にボックス圏を突き破るだろう。もちろん、上へ。7~9月決算では、4~6月期同様、欧州向け、中国向け、インド向けを中心に外需が好調だろう。海外売上高比率の高い大型グローバル企業と一部のハイテク企業によるポジティブ・サプライズが、株価を押し上げる構図が再現されるものと予想している。

ただし、利下げで救えるのは信用収縮だけである。米国では2005年に住宅販売がピークをつけたが、当初数年は返済額が極端に少なかったり、ひどい場合にはゼロだったりする非伝統的ローンが流行した。その多くは3年後の2008年から返済額が増える(または始まる)ため、住宅ローンの延滞・焦付きはまだまだ膨らむだろう。新車販売台数やチェーン店売上高からは、ガソリン価格の高騰で落ち込んだ低所得層に続き、「中の低」クラスの消費も落ち込んだことが窺われる。住宅価格の値上がりを担保価値として追加で借金して資金を引き出すホームエクイティ・ローンの減少や、消費者心理悪化の悪影響が及び始めたものと見られる。個人消費の低迷は長期化すると覚悟しておいた方が良い。

結局、米国ではマクロ面での「米国経済の弱さ」と、ミクロ面での「米国企業の強さ」の格差に、スポットライトが浴びせられることとなろう。米国経済は、これまでの余熱で、この冬こそ乗り切れようが、怖いのは2008年後半から2009年前半である。住宅価格が下落し始めて2回目となる2008年のクリスマス商戦では、本格的に財布の紐がきつく締められる可能性が高い。在庫調整の反動と、住宅以外の建設投資という「余熱」もなくなると、景気後退リスクが高まる。米国株については、2008年半ばまで強気で臨み、2008年後半は弱気に転じたい。

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