情報技術投資の効率性と労働生産性

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2007年09月04日

  • 尾野 功一
労働生産性の向上に必要な情報技術の活用
経済財政諮問会議が2007年4月に発表した「成長力加速プログラム」は、サービス革新戦略を掲げており、情報技術(IT)の革新、地域経済の成長力向上、“官製市場”等の革新などを通じて、労働生産性の向上を目指すとしている。労働生産性の向上に有効な手段は他にも数多く存在すると考えられるが、今日の経済活動の特質を踏まえると、ITを有効に活用することは欠かすことのできない重要な要素の一つである。

日本は、名目GDPに対するIT投資の規模はOECDの平均より上に位置し、労働力からIT資本への代替についても積極的である。しかし、IT投資の規模は十分でも、IT投資の効率性となると話は別である。財務省の法人企業統計を用いて、産業別に設備投資に占めるソフトウエア投資の比率を求めると、01年度から05年度までの平均値では、一般機械、出版・印刷、対事業所サービス、製材・木製品、および卸売の比率が高い。そこで、これらの産業に金融・保険を加えたものを「IT使用産業(※1)」、ITの製品やサービスを生産する電気機械、精密機械、および通信を「IT生産産業」、それ以外の産業を「非IT産業」と分類して、グループごとに労働生産性の変化率を求めると、IT生産産業の伸びが最も大きく、次いでIT使用産業、非IT産業となる。

望まれるITの効率的な利用

産業ごとに固有の特質が存在するので、この3グループ間で労働生産性の伸び率に差が生じることは問題ではない。だが、80年代と比べてグループ間の伸び率格差が拡大し、バランスが悪化しているのは好ましくない。例えば、IT使用産業は80年代よりも90年代後半以降の方が伸び率は低く、80年代後半の水準に回帰しているIT生産産業とは対照的である。90年代後半以降は、世界中でITが浸透しているが、日本ではITを生産する産業にはその効果が表れているものの、効率的にITを使用することを通じて幅広い産業で労働生産性が向上する姿には至っていない。

90年代後半以降の先進国を比較すると、規制の緩い国ほど名目GDPに占めるIT投資が高くなる傾向がある。規制緩和による企業間の競争激化に対応するために、IT投資を通じて労働生産性向上に取り組んだことが示唆される結果である。ゆえに、日本でも必要な規制緩和を一段と進め、また個別企業レベルでも、IT投資の効率化を促す組織づくりを行うなどの対応が望まれる。

(※1)フトウエア投資比率が、電気機械および通信よりも高い業種が該当する。統計の対象に含まれていない金融・保険も、この比率が高いと見込まれるため、このグループに加えている。

労働生産性の変化

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