株式取得機構の株式処分実績と日銀の処分指針の発表

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2007年08月30日

  • 壁谷 洋和
「残された持ち合い解消売り」の主体として注目される、各種公的機関について、足元で新しい情報が2つ明らかになった。1つは株式取得機構の2006年度における株式処分実績であり、もう1つは今年10月から本格処分を開始する日銀の処分指針である。以下ではその中身についてコメントしたい。

まず、株式取得機構の処分実績については、直近で発表された同機構の2006年度決算によると、株式保有金額は前年度末比で時価ベース約1.1兆円、簿価ベースで6,000億円弱減少した。時価ベース・簿価ベースともに株式の保有額は前年度末から4割程度圧縮された計算だ。数字だけ見ると、昨年10月から本格処分を開始した株式取得機構が、かなり積極的に株式を圧縮させた印象を受ける。

しかし、実際のところ処分の大半は売出しよって行われたものである。株式取得機構は2006年度に15件の売出しに応じ、7,000億円以上を処分した。また、それ以外の処分も事業会社からの自社株買い要請に対応して放出したものと推測される。決して株式取得機構自身が売りを急いだわけではなく、事業会社の要請のもとで結果的に大量の株式を売却した、というのが実情であろう。今後は原則売出しではなく、市場売却が中心になると見込まれるが、「十分な時間を費やして処分する」方針に変化はないと考えられる。

一方、未だ本格処分入りのタイミングを迎えていない日銀は、その処分方針が不透明であったが、7月31日付けで「株式の処分の指針」が明らかにされた。日銀の売却が株式需給に与える影響を考える上で、ポイントとなるのは、1-(1)、2-(1)、2(2)あたりであろう。

1-(1)に関して言えば、株式取得機構が前向きに応じた売出しが、日銀では実施される可能性が低いことが示唆される。原則として、日銀は市場売却によって処分を進めるとのことである。2-(1)では、既に株式取得機構や預金保険機構が処分方針の中で示してきたのと同様に、「市場への影響の回避」「売却時期の分散」が強調されている。額面どおり受け取れば、株式需給に与える悪影響は限定的となる可能性が高い。ただし、「2017年9月末までに完了」の表現には注意が必要である。それは必ずしも、10年間に渡って売却を継続させることを意味するものではないと考えられるためだ。あくまでもそれは最終的な期限であり、市場環境が許せば、多少の前倒しはあり得るであろう。

また、2-(2)で興味深いのは、「保有する全ての銘柄につき、概ね均等のペースで」売却を行うとしている点である。特定の銘柄に売却が集中することはなく、一定期間経過後のポートフォリオの構成も基本的には変わらないと読み取れる。「株式の処分の指針」には市場への影響に最大限配慮した日銀の工夫がうかがわれる。時価で約3.6兆円の株式を保有する日銀の処分動向は、株式取得機構や預金保険機構の動向と併せ、引き続き要注意だが、市場へのインパクトが軽微となることを期待したい。


日銀による株式の処分の指針
1.処分の枠組み
 (1)株式の処分は、原則として、取引所市場における売却により行う。
 (2)ただし、一定の要件のもとで、次に掲げる方法による処分も行う。
  イ.発行会社の自社株買入の要請に応じる処分
ロ.公開買付けに応じる処分
2.取引所市場における売却
 (1)株式の売却は、株式市場に与える影響を極力回避するため、売却時期の分散に配慮しつつ、2017年9月末までに完了する。
 (2)株式の売却は、保有する全ての銘柄につき、概ね均等のペースで行うことを基本とする。
 (3)毎営業日における銘柄毎の売却株数については、各銘柄の市場流動性を考慮して上限を設定する。
 (4)株式市場の状況に応じ、受託者の判断において、一定の範囲内で売却ペースの調整を行うことができる。特に、株価指数が著しく下落した場合には、売却の一時停止を行うことができる。
 (5)
3.発行会社の自社株買入の要請に応じる処分—略
4.公開買付けに応じる処分—略
(出所)日銀HPより大和総研作成

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