団塊の世代と近ごろの小学生事情

RSS

2007年08月28日

  • 川岡 和也
いわゆる団塊の世代の退職が始まった。またこれを機に、退職金と時間を手に入れたこの世代に照準を絞った団塊マネーの争奪戦が繰り広げられている。中でも旅行会社のツアー企画は様々な商品を揃えており、海外ロングステイもあれば、親子3世代を狙ったツアーまで登場している。いつの時代も“孫”は、引退世代を攻略する場合のキーワードなのだろう。

一方、3世代旅行(とは限らないが)から戻った子供たちは何をしているだろう。乗換え駅や住宅地沿線の主要駅周辺を見てみると、夏休みだというのに塾の夏期講習に通う小学生たちやその送り迎えの車でごった返している。夏期講習だけではなく、水泳、サッカー、ピアノ、英語、等々の習い事や理科実験教室の類い、またそれらの合宿やキャンプまで、今の子供たちは夏休みもかなり忙しい。

ある大手の中学進学塾では十数段階のクラスに毎月のテストの成績順で子供たちを振り分ける仕組みを取っており、そのクラス替えの結果に親子で一喜一憂しているケースも多く見受けられる。成績のいいクラスは教え方に定評のある有名看板講師が授業を受け持ち、成績の芳しくないクラスには新米の講師が充てられることも多い。当然、自分の子供に合う塾を求めて別の塾へ鞍替えする“塾替え”の需要も多く、これを狙って塾側も子供の争奪戦を展開する。いまどきの塾は、勉強のさせ方や中学受験の情報に関する親向けの定期的なセミナー開催も一般的になっており、まさに親子一体となっての受験戦の様相を呈している。

今は、昔(30~40年前)と比べて子供の生活に親が密着している度合いが多い。背景として一つは、子供だけで自由に出歩くのが危険な世の中になっているという事実も大きい。筆者が子供の頃は、下校後に友達と遊ぶ約束を学校でして帰り、親に行き先だけを告げてすぐに飛び出していくのが常であったが、今は子供を一人で歩かせるのが物騒な時代になっている。そのような事情もあり、また習い事のスケジュールも詰まっているため、友達の家にも勝手に行くのではなく前もって親の了承を取ったり、親が連れて行ったりすることになる。また、塾や習い事の情報収集のため、親同士の情報交換コミュニケーションも積極的に行なわれる。それらの結果、子供同士の付き合いだけではなく、親子ぐるみの付き合いも増える。自然と、友達選びにも親の意向が絡む傾向が出てくる。

ゆとり教育に対する危機感からか、兄弟の数が減り子供一人当たりに対する期待度合いが高まったからか、塾&習い事の過熱振りは収まらない。少子化の影響で一人の子供(特に小学生以下)にかけるサイフの数は昔より増えているという(両親だけでなく両祖父母のサイフも集中するため)。親の世代は住宅ローン等を抱えて汲々としているが、引退後あるいは引退間近な祖父母の世代の方が経済的にも余裕があり、特に孫のためなら出費を惜しまない。教育費のスポンサーは、おじいちゃん・おばあちゃんというケースも珍しくない。塾通いの過熱振りは、既に裏で団塊マネー争奪戦とつながっているのである。

団塊の世代は、今の子供の親世代(自分の子供たち)を養ってきたが、親世代にとっての様々な不透明要因(教育問題、将来の年金不安、その他…)が渦巻く中、今の子供世代(自分の孫たち)の面倒も見ることとなり、気が付くと悠悠自適の引退ライフを満喫するどころではなくなっているかもしれない。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。