サンクトペテルブルグと13日

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2007年08月20日

  • 渡邊 眞
7月中旬に機関投資家の方々とともに、ロシアのモスクワとサンクトペテルブルグ(以下同市)を訪れる機会があった。注目されるロシアの今・将来像を見聞きし、今後の調査活動や投資判断に役立てようとしたものである。

同市は、首都モスクワの北西約650kmに位置し、人口約460万人(ロシアの全体の3%強)のロシア第2の都市である。都市建設は300年ほど前に、時のピョートル大帝時代に始まったという。大帝はフランス等の宮廷文化に惹かれ、その町並みはいわゆる「ヨーロッパ」そのものである。街の中心部は、貴族らの宮殿をはじめ、冬宮(現在のエルミタージュ美術館)の高さを超えないように設計されたピンク、黄色、薄緑、といったカラフルな建築物が並び、運河が掘りめぐらされている。エルミタージュ美術館やマリインスキー劇場に代表される文化施設は220あまりの美術館、劇場は80を数える。

このように文化・観光都市として有名な同市が、産業・頭脳集積都市として大きく変貌を遂げようとしている。市を周回するリングロード沿いには、好調な経済発展と市政府の税優遇やサポート体制の充実化などの積極的な誘致策が相俟って、大手外資企業が次々と進出しはじめた(FDIは2005年、2006年それぞれ前年比+44%、+270%)。日系企業では、トヨタ、日産、スズキといった自動車企業が相次いで進出を表明。すでにGMやScania(バス)も進出しており、一大自動車生産拠点になる可能性を秘めている。多くの日系自動車部品メーカーが進出を決定するのもそう遠くないことであろう。JETROも7月に同市に拠点をオープンした。こうした外資企業の進出を支えるのが教育水準の高さである。100もの大学・研究所が存在し、同市の学生数はロシア全体の8%にすぎないが、PhD取得者は15%に達する。

順調な経済発展を遂げている同市にも最大のネックは労働力の逼迫であろう。失業者数は2005年、2006年と前年比▲2.8%、▲16.9%。賃金も前年比20%程度上昇しているとのことである。今後も外資大手企業の進出が数多く見込まれるだけに気がかりである。

余談ではあるが、投資家の方々が同市空港からモスクワに向かったのが7月13日。その日は金曜日でもあったが、モスクワが嵐に見舞われ飛行機が飛ばず、何もないに等しい空港で6時間あまり足止めされた。そして8月13日には、モスクワから白夜の中、同市に移動する際に利用したネフスキー・エクスプレスが爆弾テロにより脱線した。これから何度もこの魅力的な同市に行く機会があると思われるが、「13日」はちょっと避けたい気がしている。

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