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アジアの金融・資本市場と透明性

2007年08月09日

経済調査部 主任研究員 溝端 幹雄

金融政策のフレームワークが、1990年代以降、先進国を中心に発展途上国にかけて大きく変わりつつある。1990年にニュージーランドで導入されたインフレ・ターゲットを皮切りに、アジアでも韓国・タイ・インドネシア、そしてフィリピンの4カ国において、インフレ・ターゲットが採用されている。金融政策のフレームワークとしてインフレ・ターゲットを採用する利点は、高めに推移するインフレ率を低位に抑えることが期待できることにある。その意味では、アジアのような新興国の方がインフレ・ターゲットのメリットを享受し易いのかもしれない。

一方で、インフレ・ターゲットのような金融政策では、政策決定過程の透明性が求められる。例えば、各国の中央銀行法を改正して政治的圧力を回避し、中央銀行の独立性を確保することが求められる。また、インフレ率の目標値と実際のインフレ率が乖離する場合、その乖離理由を説明する責任を有するなど、中央銀行と市場との対話が非常に重要となる。

アジアでは中国をはじめとして今後の大きな成長期待から、多数の外資参入が起こっている。さらに、中国の上海総合株価指数の大幅な上昇を始め、韓国総合株価指数(KOSPI)やジャカルタ総合指数、インドのSENSEX指数等も、各国の成長期待から上昇トレンドを示しており、それらがさらにアジア各国の成長期待を高めるという好循環が見られる。しかし、こうした人々の「期待」が安定的である保証はない。実際、足元の経済活動は、将来に対する見方次第で変化する性質を持つ。将来において景気が良くなると人々が思えば、より良い状態が実現できるが、一方で、人々の将来に対する見方が何らかのきっかけで悪くなり、景気後退への見方が支配的になれば、より悪い状態が実際にも起こってしまうことが理論的にも示されており、これを「強調の失敗(coordination failure)」と呼んでいる(Cooper and John[1988](※1))。このように、人々の持つ「期待」は経済に不安定性をもたらす要因となる。

重要なのは、こうした「期待」に過度に依存する経済からの脱却であり、経済実体(ファンダメンタルズ)に沿った健全な「期待」を作り上げることである。具体的には、金融政策のみならず、企業の財務情報の開示や資本市場に関する制度・税制など、アジアを取り巻く経済環境の透明性を高めることで、経済実態に即した「期待」を形成することが重要である。グローバル化が進む中、経済運営における透明性の向上は先進国では標準的な考え方となっており、アジアのような新興国だけ特別扱いは出来ない。もし特別扱いせざるを得ないのなら、それはリスクの高いエマージング市場でしかありえない。敢えてリスクを取って、高いリターンを目指しているので構わないという見方もあるだろうが、アジアの経済規模がこれだけ大きくなって、今後もその規模の拡大が確実視される現状では、リスクの高さは世界のマクロ経済を不安定化する要因になりかねない。これは、アジアのみならず、国際経済の観点からも経済厚生の低下を意味し、経済学的には望ましいとは言えないだろう。

したがって、アジアの金融・資本市場の透明性を高めることが、世界経済にとっても、経済厚生の向上に寄与するものと考えられる。こうした透明性を高めるためには、様々な制度が過度に複雑にならないよう簡素化し、見通しを良くする必要もあるだろう。

(※1) Cooper, R. and A. John (1988), “Coordinating Coordination Failures in a Keynesian Model,”Quarterly Journal of Economics 103, 441-464.

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溝端 幹雄

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