新興地域に対する見方

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2007年07月25日

  • 佐藤 清一郎

1990年代と比較すると、世の中は、だいぶ変わった。今や、世界経済成長の主役は、中国、インドなどの新興地域である。新興地域は、アジア通貨危機後、急速な勢いで経済を回復・拡大させている。昔、新興地域と言えば、経済基盤が脆弱で、統計の信頼度も低く、極めてリスクの高い地域との見方が一般的であったが、高成長で高い投資リターンが期待できる地域へと変貌した。

状況変化を可能にしている主な理由は、(1)金融ショックの教訓による、リスク管理の強化や危機回避インフラ整備への世界的取り組みで、新興地域に、リスク制御システムが構築されてきていること、(2)先進国との経済連携協定締結の活発化やWTO加盟などで、国境の垣根が、低くなり、先進国と新興地域との経済的距離が、どんどん近くなってきていることなどである。新興地域は、こうした環境変化を上手に利用して、投資優遇策などにより、先進地域から、資本や技術を呼び込み、比較的短期間に高成長を成し遂げている。成長の過程では、先進国が培った技術やノウハウを導入することで、経済成長の質としても、昔ほどの脆弱さはなくなってきた。

IMFのデータによれば、2006年、世界の経済規模は約48兆ドルである。その内、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)合計は、約5.5兆ドルで、世界全体の約12%を占めるにいたっている。ちなみに、2000年では、世界全体が32兆ドル、BRICsが2.6兆ドルだったので、BRICsのシェアは、約8%だった。過去5年で、BRICsは、世界に占めるシェアを、4%程度伸ばしたことになる。これら地域は、現在も高成長が続いており、更にシェアを伸ばしていくのは確実な情勢である。

今のところ、米国が世界経済を牽引し、それにより、中国、インド、ロシアなどの新興地域が高成長を続けるという構造に変化は見えない。おそらく、今後も、この仕組みが大きく変わることはないであろう。これに加え、経済連携協定の活発化などで、国と国の経済的距離は、ますます近くなる方向である。世界経済には、今、経済成長を志向する新興地域にとっては極めて好ましい、領域の拡大と質的な変化が同時に起こっている。もちろん、こうした世の中でも、新興地域の脆弱さが完全になくなったわけではないので、注意は必要であるが、人口増加やインフラ未整備といった状況からくる潜在的な成長余力は魅力的である。

新興地域には、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の他にも、VISTA(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン)、GUAM(グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ)、GMS(※1)(メコン川流域に位置する地域に焦点をあてたもので、国としては、カンボジア、中国、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムが該当する)など、成長が期待できる地域が続々と登場してきており、引き続き、注目に値する。

(※1)Greater Mekong Subregionの略。1992年、アジア開発銀行の支援の下、6ヶ国が経済開発協力を行うことを計画したのが始まり。メコン川流域には、約3億人が住んでいるとされる。

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