シンガポール経済

~砂・砂利不足が成長阻害要因になる可能性も~

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2007年07月12日

  • 高品 佳正

今年2月、これまでシンガポールの建設用の砂・砂利の大半の輸入先であったインドネシアが陸上砂の輸出を全面的に禁止した。シンガポールに近いリアウ諸島からの採掘で環境破壊が進んだことなど、環境保護と国土保全が表向きの理由であるが、両国間の国境・領海確定交渉やシンガポールに逃げた犯罪人の引き渡し協定の交渉促進に向け、シンガポールに圧力をかけるのが狙いともいわれている。

禁輸に加え、密輸の監視も強化された結果、シンガポールへの供給が滞り、砂・砂利の価格が高騰。シンガポール政府は、備蓄砂の放出、価格引き下げによる価格安定を図っているが、砂・砂利の価格は高止まりしている。各種報道によれば、禁輸措置前、1トン当たり10Sドル台半ば~20Sドル台半ばだった砂・砂利の価格は、一時期の価格に比べ下落したが、直近でも60Sドル前後。砂・砂利の価格上昇に伴うコスト負担に関して、公共工事においては、政府が上昇分の一定割合の補償を発表しているほか、民間プロジェクトにおいては、業界団体が発注者と受注者でコスト分担を協議するよう指導しているもよう。ただし、コンクリートの便乗値上げ(※1)に加え、工事の遅れも出て、日系ゼネコンをはじめ、同国の建設業界の収益は圧迫されている。

シンガポール政府は、インドネシアに代わる砂・砂利の供給先確保に努めている(※2)ほか、1990年代後半に閉鎖された国内の採掘場の運営再開も検討しているとされる。また、同国の建築・建設局(BCA)は4月下旬、砂・砂利への依存度を下げることを狙い、建設プロジェクトにおけるコンクリート使用量を今後5年間で半減する「持続可能な建設マスタープラン」を発表。その一環として、各建築物のコンクリート使用上限や代替材料(※3)の使用に関する新たな法律の導入、代替材料を用いるプロジェクトに関して、通常より早く認可する優遇措置の適用などを検討している。また、BCAは建物の取り壊しから出る使用済み建材の再利用を目的とした研究も進めるとしている。

足元のシンガポール経済は、エレクトロニクスを中心とする製造業の減速を、建設業の回復、堅調なサービス業でカバー、減速しつつも3~5%と言われる潜在成長率を上回る成長を続けている。ただし、同国を代表するショッピング・エリアであるオーチャード・ロード沿いの大規模商業施設、カジノを有する総合リゾート、さらには大規模高級住宅などの大型プロジェクトはこれからが本番。現時点では大きな問題になっていないとされる砂・砂利の不足問題については、中長期的に国内の大型プロジェクト、ひいてはシンガポール経済に打撃を与える可能性があることから、当面、注意深く見守る必要があろう。

(※1)1立方メートル当たりのコンクリート価格は禁輸前の70Sドルから一時200Sドル程度まで上昇、直近でも170Sドル程度で高止まりしている。
(※2)マレーシア、中国、ベトナム、ミャンマーなどを確保したとの報道がある。
(※3)鉄鋼、ドライウォール、ガラス、金属外壁など。

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