金融政策の行方

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2007年07月06日

  • 清田 瞭
日本の金利は先進国の中でも極端に低い水準にあり、日銀が主張するように、経済・物価情勢の丹念な点検をしながら金利を早期に正常化することが必要だということに異論を挟む向きは少ない。しかし問題は何によって金利引き上げの必要性の判断をするかであろう。金利正常化論は現在の政策金利があるべき水準に比べ大幅に低すぎるという前提に立った論議であり、日銀のあるべき金利水準についての考え方が正しいことを前提にしている。

福井日銀総裁は2004年4月の支店長会議で「日本銀行は潤沢な資金供給を通じて短期金利をほぼゼロにするとともに、これを消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで続けることを約束している。」と述べ、景気への懸念を強く意識していた。

一方、今年5月17日の金融政策決定会合後の記者会見では、景気拡大の持続と先行きの物価上昇に確信を持てれば「消費者物価が多少のマイナスでも十分利上げは可能だ」との考えを示し、利上げに前向きな姿勢をにじませた。

さて、6月29日に発表になった5月の全国消費者物価指数は前年比マイナス0.1%で2月以降4ヶ月連続のマイナスとなり、「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上」は展望できていない。また、7月2日発表の日銀短観(6月調査)でも、企業経営者の景況感は足踏みしている状況が確認された。

こうした環境にもかかわらず、日銀は利上げの遅れによる景気過熱やその後の景気の振幅の拡大を懸念する発言を繰り返している。いま、日銀は何を恐れているのだろうか。まだ気配すらない物価の上昇におびえ、下げすぎた不動産価格の大都市中心部の反発におびえ、起こりえない景気の過熱とバブルの再来におびえているのだろうか。

日銀は東西冷戦終結後の世界経済一体化の物価下落への影響をどのように理解しているのだろうか。冷戦終結後の経済融合の結果、中国、インドなど、グローバル経済への新規参入国が急激な経済発展段階に入ったことで、先進国が需要する商品の多くはこれまでよりも遥かに低コストで供給することが可能となった。中国などの高成長が続き、天然資源や食料品の価格上昇や賃金の上昇を招いているとしても、これら巨大人口国の低賃金労働力のもたらすデフレインパクトは第2の平和の配当として日本を含む先進各国にインフレ無き長期経済成長をもたらしている。このように考えると、いざなぎを超える長期の経済拡大や、需給ギャップが解消して需要超過になっても消費者物価が上がらない理由が理解できる。日銀の本音が6月16日に福井総裁が明かした「設備投資にしても個人消費にしても内需の基調的な拡大の持続性について、我々はより確証が欲しいと感じている」というのであれば、必ずしも金利引き上げに前のめりになっている訳でも無さそうである。引き続き経済・物価情勢の丹念な点検を続けて誰もが納得できるタイミングを探して貰いたい。次の利上げは10月以降でも良いのではないだろうか。

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