伝統的な設備投資と新しい設備投資の違い

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2007年07月04日

  • 尾野 功一
存在が高まる新しい投資
設備投資で代表的なのは、事業所などの建物、工場で使用される機械・設備、そしてトラックなどの輸送機械への投資である。これらは、形が目に見える有形の固定資産に対する投資である。しかし、近年は情報技術(IT)が進歩し、例えば、有形固定資産に含まれるIT機器よりも、これらを稼動させる(コンピュータ)ソフトウェアの重要性が高まっている。ソフトウェアは無形固定資産に分類され、有形固定資産と同じく設備投資に計上される。

1980年代初め以降、有形固定資産(進捗ベース)と無形固定資産(取付ベース)の実質設備投資の推移を比較すると、1990年代初めと2003年以降を除いて、無形固定資産の伸びが総じて高い。そして、有形固定資産に対する無形固定資産の設備投資の規模は、1980年は1.4%だったが、2001年以降は平均で10%前後の規模に達している。「伝統的な」有形固定資産の設備投資規模は依然として大きいが、現在では「新しい」無形固定資産への設備投資も無視できない存在になりつつある。

異なる陳腐化のスピード
伝統的な投資と新しい投資との間で、特徴が鮮明に異なるのは、資産が陳腐化するスピードである。陳腐化とは、(1)資産が物理的に破損、磨耗するだけでなく、(2)性能が優れた新規資産と比べて既存資産が相対的に古くなることも広い意味で含まれる。(1)については、両者の間で大差がないと仮定しても、(2)は、技術革新が格段に速い新しい投資と伝統的な投資との間には明確な差が存在する。例えば、廃棄などを通じて既存資産が除却された比率は、1986年以降の平均で、有形固定資産は約4%強だが、無形固定資産は約16%強にも達する。この比率は、年毎の変動が小さいので両者の特徴が反映されやすく、有形固定資産よりも無形固定資産の方が陳腐化のスピードが速く、既存資産を廃棄して新規資産に置き換える必要性がはるかに高いことが示される。

このように、異なる特徴を兼ね備えた投資が存在することは、設備投資全体の動向に変化を与える可能性がある。例えば、性能が向上した資産に頻繁に置き換えることは、ある企業にとっては投資負担が重いものとなるかもしれない。一方で、既存資産を置き換えるための設備投資は、資産規模の拡大を伴わないので、過剰設備を生む恐れが小さくなる。これらの見通しは、いずれも現時点では時期尚早だが、将来的には現実に起こりうる変化として理解が必要になると思われる。

実質設備投資の推移
実質設備投資の推移
(出所)内閣府の統計より大和総研作成 
(注)有形固定資産は進捗ベース、無形固定資産は取付ベース。民営化等による段差調整後。2年移動平均。

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