円安は問題か?
2007年06月29日
円安が続いても、かつてほど海外から文句が出なくなったのは、世界的に好景気の状態にあり、日本は超低金利を背景とした資金供給者として、世界経済の拡大メカニズムに組み込まれているからであろう。しかし、先日公表されたBISの年次報告書のように、市場参加者の予想が円安に傾き過ぎることや、円キャリートレードの膨張に警告を発する意見が出ている。理由は目新しいものではなく、報告書曰く、円の実質実効レートが長期の平均水準を10%程度下回っている、98年のように何らかのショックをきっかけとして円キャリートレードの急速な巻き戻しが起こりうる、日米の経常収支不均衡に対して円レートは整合的な水準にないといったことなどである。
確かに円安が永続すると考えるのは無理がある。今は非常に低い市場のボラティリティの中で、各国との金利差が円レートを動かす大きな要因になっているが、この金利差が、日本と外国の金融政策を反映して自然に縮小する状況となれば、いずれ円相場は反転するだろう。ただ、そこで円安を止めるために利上げをすべきとなればどうだろうか。
日本のコア消費者物価上昇率は、わずかながらマイナスであり、物価だけに焦点をあてると追加利上げは正当化しづらい。だが、BISの報告書は次のように述べる。「日本はしつこい物価下落に直面してきた。しかし、これは世界中で観察される供給サイドからのポジティブなショックを反映している。中略。経済が力強く成長し、同時に日本からの資本流出が世界のいたるところで招かれざる効果をもたらしているという事実は、日銀が金利正常化を継続すべきさらなる論拠を与えている。」
これは日銀も主張してきた良いデフレ説であり、デフレの原因を巡っては数年前にも各方面で散々に議論され、未だに決着はついていない。日銀は結局のところ、追加利上げを行っていくにこの問題を避けて通れないだろう。あるいは円安の招かれざる効果がもたらすリスクについて説得力のある説明をできるかどうかである。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
ソフトウェア投資の拡大は今後も続くのか
求められるIT人材の育成、中小企業への支援、行政のデジタル化
2024年04月25日
-
中国経済見通し:名目<実質、実感なき景気堅調
不動産不況に一段の長期化の懸念
2024年04月25日
-
生成AIが描く日本の職業の明暗とその対応策
~AIと職業情報を活用した独自のビッグデータ分析~『大和総研調査季報』2024年春季号(Vol.54)掲載
2024年04月25日
-
大手生保は中長期の事業環境の変化に対応できるか
~本格化するビジネスモデル変革~『大和総研調査季報』2024年春季号(Vol.54)掲載
2024年04月25日
-
複眼的思考へのヒント
2024年04月24日