日本でも外貨準備運用は多様化するか

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2007年06月28日

  • 亀岡 裕次
海外中銀のように日本でも、外貨準備運用の多様化は近い将来進むのだろうか。米国債と預金が中心と言われる日本の外貨準備運用だが、ドル建てだけでなく他の外貨建てにも資産を分散したり、ドル建ての中で運用資産を多様化したりする選択肢はないのだろうか。

07年3月末で1兆2020億ドルと、世界最大規模の外貨準備高を保有する中国は、外貨準備の一部を積極的に株式や債券などで運用するための新機関を設立した。中国は、外貨準備が急増してGDPの約40%に達しているうえ、人民元高・ドル安によって米国債などのドル建て資産が目減りしてしまう問題があるため、外貨準備運用のリターン向上とリスク分散が急務となっている。新機関は、すでに5月には米プライベート・エクイティ大手のブラックストーンに30億ドルの資金を委託し、運用を開始している。新機関は年内にも正式に法人化されるようだが、初期の運用規模は2000億ドルに達するとの見方もある。

外貨準備の運用機関といえば、シンガポールが1981年に設立した政府投資公社(GIC)が有名だ。GICは世界の株式、債券、不動産、外国為替、コモディティ、ヘッジファンドなどに幅広く投資し、06年3月までの25年間の運用利回りはドルベースで年率9.5%に上る。シンガポールの外貨準備高は07年5月末で1412億ドルと、GDPのおよそ100%に達し、主要国の中ではGDPに対する外貨準備高の比率が最も高い。ただし、中国が外貨準備の運用を多様化する額は、シンガポールの外貨準備高を上回る可能性が高く、世界の金融市場にも大きな影響を与えうる。もし日本までもが同様の動きに出れば、なおさらである。

日本の外貨準備高は5月末で9111億ドルと世界第2位であり、GDPの約20%に達する。外貨準備高のうち、1年間の輸入額程度の6000~7000億ドルは必要額として安全性・流動性を重視するとしても、2000~3000億ドル程度は余剰額として収益性を重視してもよいように思える。ただし、日本の外貨準備運用について中国とは同列で語れない部分がある。第一に、安全保障上の日米同盟関係があるため、外交面から米国債を売却しにくい可能性がある。第二に、人民元とは違って円はドルに対して下落しているので、ドル建て資産が目減りするどころかむしろ膨らんでいる。もちろん、為替動向次第でこうした状況は変わりうるが、今のところ日本にとって外貨準備の収益性を高めるインセンティブは働きにくい。第三に、財政法のルールとして国の歳入と歳出を日本円で計上する必要があるため、ドル建て運用益が上がった場合、ドルを売って円に現金化しないのであれば、運用益に見合う額の外国為替資金証券(為券)を発行して歳入に計上する。外貨準備の収益が上がれば上がるほど、国の借金も増えてしまうのだ。したがって、外貨準備の運用多様化で収益性を上げる以前に、こうしたシステムを変える必要があるだろう。そもそも、円安が過度に進んだ場合にドル売り・円買い介入を実施して過剰な外貨準備の為替差損リスクを減らすことがないようでは、米国離れできない証拠であり、運用多様化も期待薄ではないか。

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