表面化した年金記録問題の有効な活用方法

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2007年06月27日

  • 柏崎 重人
公的年金保険料の記録漏れ問題が急速にクローズアップされ、国民的な関心を集めている。ただ、そもそも記録管理ミスの指摘は今に始まった問題ではない。関係者の間では、社会保険庁が手書きの台帳による記録を電子化しはじめた昭和50年代半ばから、様々な形での入力ミスの存在を危ぶむ声があった。当時は漢字入力が技術的に困難なためにカナ入力が中心とならざるを得なかったようだが、その際に氏名や住所の読み方を厳密に確認せずにデータ処理が行われる危険性などの指摘である。

また問題の一部が表面化しかけたことが、つい数年前にもあった。厚生年金基金の代行返上認可を国から受ける際に、社保庁保有データと基金保有のデータを照合する折のことである。両者において加入者1人ずつ過去の加入状況や標準報酬(算定対象給与)に間違いがないかを確認するのだが、予想に反して記録の不一致が多数発見され、中には記録が欠落しているケースも少なからずあった由。極端な話としては、代行返上認可を受けるための事務作業において保管記録の控えが完全でないために、やむなく社会保険庁側の記録に合わせて基金側の記録を訂正したといった話も耳にした。社保庁の記録管理状況に不信感を抱きながら、忸怩たる思いで事務作業を進めていた担当者は少なくないようだ。

では今さらなぜここまで問題が大きくなったのかというと、やはり今回の明るみに出た問題記録の数が5,000万件という途方もないものだったからに違いない。確かに社会保険庁の杜撰な記録管理という実態は、国民の信頼を大きく裏切るものであった。ただ、背景には年金保険料納付の事務処理の一部を担う市町村の担当者の勘違いや企業における事務処理時の記入ミスなど他にも多くの原因がありそうだ。さらに言えば、(1)複雑で分かり難い日本の年金制度(制度毎の負担と給付の関係が不明確な状況等)、(2)加入者による申請・届出に基づく記録管理・制度運営体制など根本的な問題も絡んでいる。単に社会保険庁およびその職員を一方的にバッシングするだけでは、実効性ある問題解決は難しい。

今足元で必要なことは、国民の不安を急ぎ取り除くため、まずは年金記録の総点検に全力を挙げて取り組むことだろう。政府は国民に対して保険料納付の履歴を出来るだけ詳細に通知し、国民は自ら記録を点検することを早期に実現させるべきだ。その際、負担と給付の関係を赤裸々に開示、国民1人1人に状況を正確に知ってもらう配慮も重要だ。

具体的な方法としては、来年から送付が予定されている「ねんきん定期便」の通知内容拡充と送付時期の前倒しが有力な選択肢となる(与野党提唱の「年金カード」「年金通帳」でもよい)。通知内容としては、現在「ねんきん定期便」で記載が予定されている累積ポイントのようなものだけでなく、月次ベースで過去からの標準報酬や納付保険料の推移(事業主負担分も分けて開示)を細かく列挙することが何よりも肝要だ。こうした情報を通知しない限り、各自が過去の全ての状況を点検できるようにはならないだろう。同時に、今後の平均給与に一定の仮定を置き、将来的な受給水準を見込みベースで試算するなども併せて要望したい。平均的な被保険者(年代別・制度別)の負担保険料の使い道等を簡潔に示すことで、公的年金における負担と給付の関係を明確に示すこともできるだろう。

最終的には根本的な問題解決の前提となる「公的年金における負担と給付の関係の真実」を一人でも多くの国民に理解してもらうことが重要なのだ。マスメディアも政治家も今般の騒動を単に煽ったり、選挙、政局のテーマとするなどの愚を避け、国民を巻き込んだ本格的な年金問題解決に向けた契機として活用するよう願うばかりである。

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