資本市場から求められる財務政策

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2007年06月22日

  • 川田 武文

今年の上場企業の株主総会では、株主提案の半数以上を占めるのが増配要求だという。例えば小野薬品がファンドからの増配要求に対し、今後3年間のフリーキャッシュフローをすべて配当か自社株買いに充てる対案を出したが、ファンド側は今後稼ぎ出すキャッシュフローを株主に還元するだけでは、資本が過剰な状態は変わらないと主張したとする報道があった(2007年6月15日付日本経済新聞)。この報道では、ファンド側は配当をファンド側の要求額にしても、金融資産残高は、過去10年の戦略投資累計額を上回ると強調しているとのことである。

ここでの論点は、「事業投資に回されない資金は株主に還元せよ」ということである。この論点も含め、現在の上場企業に資本市場から求められている財務政策のポイントを整理してみたい。「資本市場から」ということは中長期的な企業価値の最大化の観点ということであり、財務論(ファイナンス)の観点ということになる。具体的には事業について企業価値を損なわないための「資本コスト充足」を基軸として、図のようにA~Cの3系統で整理するのが現実的と考える。

まず、A系統で事業自体については資本コストを充足できるかどうかで戦略的判断が決められ資金の調達、投資が整理される。

次に、B系統で、冒頭のやり取りが行なわれた「多額の金融資産」、さらにこれに加え「遊休資産」も含め、これらが資本コスト充足の事業投資に振り向けられるか、それができなければ株主還元するという判断で整理される。

そしてあえて付け加えておきたいのが、C系統の「事業承継」だ。これは上場企業の多くにおいて現実に大きな課題となっており、創業者・創業家、いわゆるオーナーの持株の移動である。持株が広く市場に放出され、経営がファンドも含む様々な株主の評価に一層さらされることになるのか、同族に引き継がれ、創業家が引き続き株主としても力を持ち続けるのか、様々なケースが考えられる。ただしここにおいても、企業価値の最大化が選択の基軸であることに変わりはない。

以上、3系統のうち、財務政策としてわかりやすいB系統が多くとりあげられているのが現状である。そしてさらにA、Cを含めたトータルでの経営成績を問題にしているのが、「3期連続ROE8%以下の企業の取締役の再任に対して株主総会で反対票を投じる」(企業年金連合会)とする機関投資家の議決権行使の姿勢である。
 

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