資本効率への意識を高める欧州資本財企業

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2007年06月07日

  • 加治 大器
欧州資本財セクターでは、収益性指標としてEBITマージン(※1)のみならず、ROCE(※2)を新たな経営指標として導入する企業が増えている。ROCEは、投下資本によってどれだけ効率的に利益を生み出したかを見る指標。直近では、最大手のシーメンスが2007年4月に発表した中期経営計画でROCE目標を導入。カバー企業11社中、7社目(※3)の導入となった。

シーメンスは、05年初のCEO交代により、増収率目標を世界GDP成長率の2倍以上に設定。良好な収益環境下で投資ニーズおよび投資チャンスが高まる中、積極的に資金を投じた。その結果、設備投資は減価償却費を上回ったうえ、成長・注力分野での相次ぐ買収によるキャッシュアウトから、純負債水準が上昇。同じペースで資金を投じることに対し、懸念が持たれるようになった。そこで、部門別EBITマージン目標に加え、ROCEとキャッシュ転換率(※4)目標を新たに設定。設備投資の優先順位付け、運転資本管理の強化に加え、さらなる資産売却(自動車部品事業のIPOを予定)を進めている。これは、利益成長の加速化を実現するために必要なキャッシュを、自己調達するための有効な手段ととらえることができよう。

積極的な買収・株主還元で株主価値向上へ

カバー企業の中で、ROCE目標の設定とその改善で先行しているのはスウェーデン3社(※5)である。3社は、シーメンスが目指すキャッシュマネジメントでも先行。設備投資の抑制、積極的な買収による高増収率の達成のみならず、魅力的な株主還元も実現している。

06年に、3社の中で最も注目される経営アクションを起こしたのはアトラスコプコ。グループEBITの28%を占め、マージンと利益成長率で最高であった北米レンタル事業を売却した。ROCEが相対的に低く、事業拡大局面で多額の設備投資が必要であったためである。また、売却後、短期的に多額の資金ニーズがないと判断し、売却額をやや上回る約244億SEK(4,300億円強、時価総額比17%)を特別に株主還元することを決定。ROCE上昇(税引き後、株主還元考慮後で推定約31%)と資本コストの低水準維持(同8.5%)を実現した。

ROCE上昇は、理論的には、資本コストとのカイ離拡大により、新たな株主価値創造に寄与するととらえられる。これは、上述した欧州資本財企業の場合、ROCEの上昇を通じて十分なキャッシュを創出し、戦略的な投資(買収を含む)を反映した高利益成長に伴う株価上昇(キャピタルゲイン)と、魅力的な株主還元(インカムゲイン)により、株主価値向上を実現することに対応している、と見ることができよう。

(※1)「EBIT÷売上高」で算出。EBITは、Earnings Before Interest and Taxes(金利税引き前利益)の略。
(※2)ROCE=Return on Capital Employed(使用総資本利益率)の略。一般に「支払利息控除前の純利益÷投下資本」で算出。
(※3)シーメンスの目標は税引き後で10年度に14~16%。その他はアトラスコプコ、サンドビック、SKF、ABB、シュナイダーエレクトリック、ハイデルベルグ
(※4)「フリーキャッシュフロー÷継続事業からの純利益」で算出。シーメンスの目標は10年度に1倍。
(※5)アトラスコプコ、サンドビック、SKF

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