「ふるさと納税」と寄附の視点

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2007年06月05日

  • 経済調査部 市川 拓也

最近、地域の税収格差の問題とともに、住民の納税額の一部を自らのふるさとに納める「ふるさと納税」が話題になっている。報道では、地方税である個人住民税の一部をふるさとの自治体に振り替える方法がしばしば取り上げられているほか、ふるさとに納めた分を税額控除で調整する方法も伝えられている。

いずれにしても、実際にどれだけの人がこの制度を利用するのかわからないことから、地方税収格差の是正策としての効果は予測しづらいであろう。さらに、地方税収をマクロで捉えた場合、個人住民税の一部を振り替える方法では税収総額は変わらないわけであるから、単純にコストが増加する分住民サービスの総額が減少するとも考えられる。現在における受益と負担の関係を、敢えて崩すわけであるから、この分野の専門家から多くの賛同を得ることは容易ではないかもしれない。

しかし、寄附の視点で考えれば、「ふるさと納税」は大変興味深い手法でもある。寄附に関しては、最近では「公」を担う新たな主体として民間の非営利法人や団体が注目されているが、こうしたところへの寄附を含め“寄附文化”の醸成は促進される方向にある。伝統的な「公」におけるサービス主体である自治体はこれらの法人・団体と根本的に異なるものの、もともと払う税金を元手に自分のふるさとの自治体に寄附できると考えれば、納税への意識も随分と違ってくるのではなかろうか。

納税者たる住民が税の支出先を指定するものにパーセント法(※1)というのがあるが、このような観点から納税者が地方財政に関心をもつようになることは地方分権改革においても重要なことである。受益者負担に反するとの指摘が大きくならない程度の規模で、住民の地方財政への理解が深まるのであれば導入自体はプラスであろう。その場合、地方税収格差の是正がこの程度でお茶を濁されては困るという声もでてこようが、そもそも地方分権の推進にはそれに則した地方税制の抜本改革が必要なのである。

(※1)この手法の国内の例として、市川市の市民活動団体支援制度(1%支援制度)がある。

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