中国の外資優遇税制の撤廃の背景と影響

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2007年05月25日

  • 篠原 春彦
2007年3月に閉幕した中国の全国人民代表大会において、外資優遇税制を撤廃する「企業所得税(法人税)法案」が採択された。2008年1月にも国内企業と外資系企業の税率を一本化する一方、内外資を問わずハイテク化や環境保護に役立つ企業を優遇する。国内企業との競争も激しくなる中で、優遇税制が撤廃されることにより、進出地域や業種、進出の方式などについて中国戦略を練り直す必要に迫られる日本企業も出てきそうである。

外資の優遇税制は、改革開放政策を始めた1970年末からで、外資を積極的に誘致するために設けられた。中国の法人税は現在33%だが、開発区などに進出した外資系企業には15%もしくは24%の優遇税制を適用していた。法案はこれを内外企業とも25%に統一する内容である。すでに進出している企業については段階的な措置を経て、5年後までに引き上げられる。利益が出た年から2年は免税、その後3年は5割の減税を受ける優遇(2免3減)も、段階的に廃止される。

中国政府が優遇税制の撤廃に踏み切った背景には、外貨準備高が2006年2月に日本を抜いて世界一になるなど資金不足時代が終わり、中国の世界貿易機構(WTO)加盟から5年が経過し、同機構の「内外無差別」の原則を順守する必要があった。この他、中国企業がケイマン諸島や、バージン諸島など租税回避地にペーパーカンパニーを設立して、「外資」として優遇を受ける脱税問題の解消が求められていた。中国商務省によれば、2006年の外国人投資全体の25%が租税回避地を経た中国企業の脱税回避型投資(迂回投資)であると推算している。このため、優遇税制撤廃は、国内企業にも影響を与えそうである。

各種報道記事をみる限り、進出している日本企業の多くは、優遇税制撤廃の影響は大きくないとのコメントが目立つ。撤廃後もハイテク企業には税制優遇が続くほか、5年間の経過措置があることが背景にあるようである。ただ、「ハイテク」などの具体的な定義や、経済特区の扱いも現時点では定まっておらず、不透明な部分は多い。今後も中国の巨大市場を目的とした投資拡大は続くとみられるが、賃金上昇や人民元高などによりアジアの工場としての優位性が低下しつつある中で、優遇税制撤廃が製造拠点としての魅力を失う一因となることは間違いなさそうだ。

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