ロシアの優先的国家プロジェクト

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2007年05月22日

  • 渡邊 眞
ロシア経済は、慢性的な巨額の財政赤字、国際商品市況の下落、アジア危機の余波などにより1998年8月に金融危機に見舞われた。しかし、通貨ルーブルの切り下げ(実効為替レートで45%程度)を契機に工業生産が回復、原油価格の反転も追い風になり底打ちした。ここ数年の経済成長率は年平均7%前後と好調を続けているが、その背景は資源大国ロシアにとって、原油や天然ガス価格の高騰・高位安定の恩恵が大きいのはもちろんであるが、2000年のプーチン大統領の登場による政情安定と予測可能な経済・財政政策によるところも大きい。

そのプーチン大統領が2008年3月に任期を終える(憲法により三選は禁止されている)。もちろん同大統領が政治・経済の世界から姿を消すことはなく、影響力を持ち続けると見られている。最近、エネルギー政策をめぐってEU等との意見の食い違いが表面化し、ロシア・EUの関係は冷戦時代に逆戻りしているとの見方もあるが、歴史的背景から米国・EUなどの大国と一線を画し独自の道を歩むロシアが、国家アイデンティティや将来の確固たる経済成長をものにするために駆け引きを行っているのである。

そのプーチン大統領が国内で精力的に推し進めているのが、2005年9月に発表された優先的国家プロジェクトである。同プロジェクトは、旧ソ連時代からの数十年間に亘り顧みられなかったセクターを復活させ、将来に向けた社会基盤を整備することを目的としている。陣頭指揮は大統領候補と目されるメドヴェージェフ第一副首相。資源は、保健、教育、住宅建設、農業の4分野に集中投下される。2006年のプロジェクト支出総額は連邦財政支出総額の10%にあたる1,200億ルーブル(約45億米ドル)で、2007年は1,700億ルーブル以上が見込まれている。ロシアの人口は1993年をピークに年率0.5%ほどのペースで減少している(旧ソ連共和国からの移民がなければさらに拍車がかかったであろう)ことから、このプロジェクトの中で最大の支出が割り当てられているのが、疾病予防を中心とした保健分野であり、2006年のプロジェクト支出総額の47%を占めている。かつての劣悪な医療環境やウォッカの飲みすぎ?もあろうが、ロシア人男性の平均寿命は2005年で59歳。1950年代とほとんど変わらない。

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