誰がための内部統制

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2007年05月18日

  • 小池 紀男
来年4月以降開始される決算期から上場企業等に対して、「財務報告に係る内部統制報告制度」が導入されることは、経営者の方々はご周知のことでしょう。米国におけるいわゆるSoX法と同様な経緯(上場企業による不正経理の多発)を経て導入されることから「日本版SoX法」などと称されていますが、米国SoX法をそのまま我が国で実施するものでは決してありません。我が国への導入にあたって様々な工夫が示されています。

本制度は我が国証券市場に対する信頼性の回復のため、上場企業が公表する有価証券報告書といった財務情報を「作成する手続」が適切に行われていることを示すことで、投資家に対するディスクロージャーを強化するということが目的です。

本稿では「財務報告に係る内部統制」を取り上げますが、実際の企業における内部統制(インターナル・コントロール)については様々な側面があります。会社法上のガバナンス、銀行法・保険業法あるいは証券取引法(金融商品取引法)等の規制監督上の見地、あるいは企業の社会的責任に係る見地などがあります。この様に上場企業等は社会的存在としてすでになんらかの内部統制を有しているはずです。

日本版Sox法に対応するということはすなわち、従来有する内部統制を総点検するとともに、財務報告の見地から更なる向上を図るプロセスといえます。ここで求められるのは、財務報告に係る情報に重大な不正、誤謬が起こるリスクを捉え、これをコントロールし、かつこれらのルール、運用状況、判断を記録・保存することです。さらに、このようなコントロールに不備がある場合は是正します。単に内部統制にかかる現状のルール、状況を記録するだけでなく、内部統制を向上してゆくというサイクルをまわすことです。

上場企業の有効な内部統制の確立は、投資家保護のためでありますが、会社の経営基盤の強化につながります。経営者の責任意識とともに、役職員の業務遂行にかかる経営意識レベルを一段と高めることが欠かせません。すなわち経営者の方は誰かに内部統制を任せっぱなしにできませんし、役職員の方々は各自の経営意識、業務資質の向上が欠かせません。内部統制の向上は経営、業務にかかる継続的な人材育成無しでは成り立たちません。内部統制はこれを構築、運営する企業にとっての目的であるのです。

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