平成17年度・大学法人の収支性指標の特徴

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2007年05月10日

  • 内藤 武史
昨年12月に日本私立学校振興・共済事業団による『平成18年度版今日の私学財政(大学・短期大学編)』が公表された。この最新データを用いて、平成17年度の大学法人の収支性指標の注目点を概観すると以下のようになる。

平成17年度は帰属収入が前年比3.3%増加(寄与度は学校事業収入2.4%、事業外収入0.9%)、消費支出が2.8%増加(寄与度は学校事業支出2.5%、事業外収入0.3%)となっており、帰属収入の増加率が10年度以降で最大となっている。

主要指標をみると、企業の使用総資本事業利益率(ROA)に該当する「{(学校事業収入-学校事業支出)+事業外収入}/総資産」、売上高事業利益率に当たる「{(学校事業収入-学校事業支出)+事業外収入}/学校事業収入」、売上高経常利益率に当たる「帰属収支差額/学校事業収入」といった代表的な指標がいずれも平成17年度に上昇しているのに対して、売上高営業利益率に該当する「(学校事業収入-学校事業支出)/学校事業収入」については0.1%ポイントではあるが17年度も低下している。両者の違いは、前者が事業外収入もしくは事業外収支が反映されているのに対して、後者は反映されていない点である。

そこで、「学校事業収入-学校事業支出」(=学校事業収支) をみると、1法人当たり16年度444百万円、17年度445百万円と低水準横ばいである一方、「事業外収入-事業外支出」(=事業外収支) は16年度335百万円、17年度396百万円と前年比18%強も増加しており、後者が先述の3指標の押し上げ要因となっていることが確認される。さらに、事業外収支の増加要因をみると、事業外収入が前年比19.1%増、事業外支出についても同16.6%増加しているので、事業外収入の大幅な増加が主要因であることがわかる。ちなみに、事業外収入の項目別寄与度は資産運用収入が0.4%、資産売却差額が0.7%と高くなっている。結論として、学校事業収支の伸び悩みを事業外収支が支える傾向は一段と高まっているということができよう。

もっとも、こうした傾向の持続可能性については予断を許さない。問題点として指摘できるのは、17年度の事業外収入のうち資産売却差額の寄与度が高い点である。資産売却差額は主に有価証券売却益と不動産売却益からなるが、これらは安定的に成果が期待できるものではない。その意味では主に金融収益と施設設備利用料収入からなる資産運用収入の向上に今後は注力する必要があろう。

ところで、学校事業収支が低水準横ばいであるため、冒頭で述べた帰属収入の伸び率と学校事業収入の寄与度の高さが見落とされがちであるため、この点についても若干言及しておこう。学校事業収入では最近の傾向として事業収入が全体を下支えする状況が続いているが、17年度はこれに加えて寄付金の寄与度が1.0%と高くなっているのが一際目を引く。但し、こうした傾向が17年度以降も続くか否かは定かでない。もちろん、学生生徒納付金や補助金などの学校事業収入が伸び悩む中で、寄付金収入の拡大は大学法人にとってきわめて重要であり、今後の事業戦略の鍵を握っているといっても過言ではなかろう。

(注)学校事業収入=学生生徒等納付金+手数料+寄付金+補助金+事業収入、事業外収入=資産運用収入+資産売却差額+雑収入、学校事業支出=人件費+教育研究経費+管理経費、事業外支出=借入金等利息+資産処分差額+徴収不能額

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