政見放送のネット配信は真正性こそ重要
2007年04月20日
先ごろ行われた東京都知事選挙において、特定の候補者の政見放送を複製した動画が YouTube (ユーチューブ) 等の動画投稿サイトに投稿され、物議を醸した。私もその動画を視聴したが、マスメディアが事態を報道し始め、さらには東京都選挙管理委員会が「公平性」の問題を理由として YouTube 等に削除要請するまでは、そもそも本物の政見放送の (改変を伴わない) 複製なのかどうか、少々の疑いを持っていた。
今回の動画投稿については、明確に違法だとは言い難いようである。政見放送の著作権は、選管にはないとする見解が有力である。また、公職選挙法上の問題としても、選挙運動目的の動画投稿でなければ、公職選挙法に基づく撤去命令を選管は出せないことになる。
結局、「特定の候補者の政見放送だけが自由に閲覧できる状況は不公平」という理由で、都選管は動画投稿サイト2社に当該動画の削除を要請した。1社 (日本企業のサイバーエージェント) はすぐに対応して削除したが、もう一方の米国企業YouTube (親会社Google) からの返事はないまま、選挙期間は終了し、当該動画は削除されなかった。(2社の対応が分かれたことについては、それぞれの企業ポリシー等があってのことだろうから、ここでは言及を避ける。)
もしも公平性の問題のみを理由とするならば、削除という手段だけでなく、全候補者の政見放送の複製動画が投稿されてしまうというのも、一つの解決となりうる。しかし、もっと重要な問題は、投稿された複製動画の内容が、まったく改変を伴わない本物かどうかという、真正性にあるのではないか。
選挙期間中のビラは、選管の交付する証紙をはらなければ頒布できない。選挙期間中の葉書は、日本郵政公社において選挙用である旨の表示をしたものでなければ頒布できない。選挙期間中のポスターは、選管の検印を受けるか証紙をはらなければ掲示できない。これらのルールは、枚数を制限して公平性を保つ役割のほかに、候補者自身によって作成された本物であることを示すという、真正性を保つ役割も果たしている。
そして、政見放送においては、所定の回数、日時、放送局によって政見を放送するということが、選管の検印や証紙と同様の役割を果たしている。都選管が、真正性ではなく、公平性の問題のみを理由として YouTube 等に削除要請したことは、政見放送を複製した動画の内容の真正性を公的機関が認めたということを暗に意味するのである。
さて、YouTubeでは、2008年の米国大統領選挙を特集した「You Choose ’08」というチャンネルが設けられており、有力か「泡沫」かを問わず公平に、候補者自身が投稿した動画を掲載している。この場合は、YouTube (Google) が、動画の真正性を保つ役割を果たしていることになる。その真正性を信頼するかどうかは、YouTube (Google) を信頼するかどうかという問題に帰着することになる。
近い将来、日本でも政見放送がネット配信されるようになるとして、その真正性はどのように確保すべきだろうか。電子署名の内容を電子透かしとして動画に埋め込むなどの技術的対策も考えられる。しかし、技術的にも一般的にも分かりやすい手法は、やはり、選管の指定したサイト、あるいは選管自身の公式サイトに、政見放送の動画を掲載することだろう。そうすることによって、公平性も自ずと確保できるはずである。
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