本当の格差とは何か?

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2007年04月19日

  • 肖 敏捷
農村と都市に分けて国民を管理する中国の戸籍制度の仕組みそのものは、約50年前の導入からほとんど変わっていないが、農民の都市への移動を制限する力は徐々に失われつつある。しかし、就職や社会保障など、農村戸籍の保持者が依然差別的な待遇を受けているのは実状で、戸籍の一本化を求める声が日増しに高まっている。一方、都市戸籍の間にも不平等が存在することは意外に知られていないようだ。

全国600以上の都市のうち、北京市と上海市は特別扱いを受けている。この二大都市が最も住みたい都市に選ばれるのは、地域格差の激しい中国で、所得水準や生活インフラなどが特出しているからだけではない。北京と上海の戸籍さえ取得できれば、「勝ち組」入りが実現する確率がぐんと上がるからである。大学進学はその一例である。

中国の大学数はこの10年間で760校増え、2005年末時点で合計1,792校、大学進学率は80年代の2%から05年には18%に上昇し、「狭き門」は過去の話となった。同時に、2000年以降の「量産体制」が大卒者の供給過剰をもたらし、就職難という未曾有の事態が起きるなど、大学生の稀有価値が大きく低下している。こうした中、激しい競争社会を生き残るため、多くの受験生が名門大学を目指して勉強に励んでいるが、成績だけで努力が報われるとは限らないという残酷な事実がある。

それは、名門校が地元学生の優先入学制度を敷いているためである。報道によると、2005年に北京大学と清華大学は地元北京市から合計851人の入学を認めたが、河南省の入学枠はわずか171人、両校に入る確率は、北京市の2万人に1人に対し、河南省では57万人に1人と約30倍もの格差がある。上海の名門校である復旦大学も、学生の60%が上海の戸籍保有者である。成績優秀ならばまだしも、全国統一試験制度が復活した1978年以降、北京と上海の合格ラインは全国平均を大きく下回っており、同じ点数でも地方の受験生なら二流大学、北京の受験生は名門校というのは周知の事実である。

唐代からの官吏登用制度である科挙は、「四書五経」といった儒教の経典からのみ出題されたため、暗記ばかりで自由闊達な発想力を育成できず、中国の近代化を阻害したとの理由で1905年に廃止された。しかし、受験者の身分や出身地を問わず、試験結果による機会の平等を徹底的に重視した点はこの制度の長所ではないかと指摘できる。機会の格差を生み出す戸籍制度がある限り、公平かつ安定な社会の実現を目指す「調和社会」は絵に描いた餅に過ぎない。一方、最近、日本でも格差問題への関心が高まっているが、本当の格差とは何かを議論する際、中国のこの一例は参考になるかもしれない。

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