金融市場動揺に対する抑止力 グレート・モデレーション

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2007年04月05日

  • 取越 達哉
日本経済のボラティリティが低下している。実際、実質GDPの伸び(前期比年率)の標準偏差(過去4年間)をみると、足許では2%をやや上回る程度にまで低下しているのである。これは、80年代前半以来ほぼ20年ぶりの低水準でもある。こうした経済のボラティリティの低下は、マーケットに根強く残る景気の先行き不透明感を弱める効果をもたらし、実質GDPの堅調な伸び(=好景気)とともに、これまでの日本株上昇の一因であったと考えられる。実際、実質GDPのボラティリティの低下と株価上昇には一定の関係がみられる。

もっとも、実質GDPのボラティリティの低下は、日本だけの特徴ではない。長期的にみると、英国を筆頭に多くの国において同様の傾向が観察され、足許ではいずれも過去最低水準に位置している。しかも、多くの先進国のボラティリティはすでに、日本よりも低い。こうした世界的な実質GDPや、インフレ率、失業率などファンダメンタルズのボラティリティの低下はしばしばグレート・モデレーションと呼ばれ、多くの注目を集めているが、いずれにせよ、近年の世界的な金融市場のボラティリティを低下させ、ひいては新興国株価を筆頭に、リスク資産価格の上昇をもたらしてきた原因の一つであると考えられる。

グレート・モデレーションの原因としては、(1)在庫管理の高度化、(2)製造業に比べボラティリティが総じて低いサービス業のプレゼンスの高まり、(3)金融政策手法の向上、(4)たまたま運が良かっただけ、といったことがしばしば指摘されるが、明確なコンセンサスはないようである。なおこれらのうち、少なくとも(1)と(2)は構造的なものであろう。

今後、2000~2001年にかけてのITバブル崩壊のような大規模なショックが起これば、ボラティリティの急上昇は避けられない。ただ、ITバブル崩壊一巡後は再び低下に向かったように(あるいは長期トレンドが示唆するように)、経済のボラティリティの低下圧力はかなり根強いものである可能性が高い。そしてそれは、最近生じたような世界的な金融市場の動揺に対しても、強い抑止力として働くことになる。

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