普及促進が期待される個人勘定型年金

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2007年03月13日

  • 柏崎 重人

このところ日本では「貯蓄から投資」への掛け声の下、リスクキャピタル供給の役割を家計部門に担ってもらうことを意図した政策が少なからず実施に移されている。また少しずつではあるが、家計部門の投信保有比率の上昇などその兆候も出始めている。しかし、日本の家計部門の状況が根本的に大きく変化を遂げつつあるとは言い難い。実際、アメリカ、ドイツ、イギリスの家計部門の動きと比較すると、大きな彼我の差を痛感せずにはいられない。

91年末時点で家計部門における株式などリスク性資産の保有割合は、アメリカ、イギリスがほぼ50%、日本とドイツはほぼ同水準の20%程度であった(同数値には年金基金を経由した間接保有分を含む:図表1参照)。同比率はここ15年間にアメリカでは約60%へ、ドイツではほぼ倍増の40%程度へ上昇している。イギリスでは15年前とほぼ同水準にとどまるが、元々50%近い高い割合である。これに対して日本では、90年代を通じて同比率が一貫して低下、02年末をボトムに反転しているものの、05年度末では依然として15年前と同水準の22%にとどまっている。年金基金経由の間接分を除くとその差は一層顕著で、リスクキャピタル供給主体としての家計部門の姿が、日本だけ如何にも前時代に取り残されているかようだ。今後の急速な少子・高齢化や人口減少等の状況を考えると、家計部門のリスク性資産保有割合拡大を加速して、早期に労働・資本など資源の効率的な配分メカニズムを機能させる必要性が唱えられるのも無理からぬ話である。
 

図表1:個人金融資産に占めるリスク性資産*の割合推移
図表1:個人金融資産に占めるリスク性資産の割合推移

*:リスク性資産は「株式・出資金」と「投信」の直接保有分に年金・保険経由の間接保有分を加算した数値を使用。
(出所)各国中央銀行の資金循環勘定統計より大和総研作成


現実にその流れを促して効果あるものとして定着させるには、今後の年金政策の巧拙が大きな鍵を握っていると言えるだろう。自己責任投資を原則とする確定拠出年金の採用拡大が、合理的な投資行動の前提となる投資知識の日本国民への普及・浸透へと繋がる期待があるためだ。米国401(K)プランなど確定拠出年金が普及した国々では、家計部門の投資信託購入が確定拠出年金における投資教育や実際の投資を契機として開始されるケースが少なくない。投資教育の普及・浸透には各国とも頭を痛めているようだが、少なくともリスク性資産投資と個人勘定型の確定拠出年金普及とは密接な関係がある。

残念ながら現状日本では確定拠出年金など個人勘定型年金に占める割合が米国に比して著しく低い。米国は年金積立資産総額のうち57.5%が個人勘定型の確定拠出年金で、さらに家計部門全体のリスク性資産保有割合も高い。一方、日本では個人勘定型の年金資産は年金全体のわずか3.5%にとどまっている(図表2参照)。

そもそも経済規模を考えると、個人勘定型か否かに係らず日本の年金積立資産は総額自体も小さいのが実情だ(米国の年金積立資産総額はGDP比125%、日本は同70%)。日本国民の多くが将来の給付を現時点の積立年金資産ではなく、全体として賦課方式である公的年金すなわち将来世代の支払保険料に大きく依存しているのが大きな原因だ。また、このことは「十分な年金が支給されるのか?」と不安に駆られた家計部門が過剰な預貯金購入等に走る構造とも無縁ではないだろう。現状の家計部門の資産配分、つまり市場原理を通じた効率的な資本蓄積の困難な金融構造が、公的年金に過度に依存した日本の年金制度体系、そしてその持続可能性の低さと相互に関連を持っている可能性が高いのである。「十分な年金給付の確保」という観点からも、早期に年金制度体系において個人勘定型年金を重視し、家計部門の「貯蓄から投資」への流れを加速させる必要性を指摘しておこう。
 

図表2:日米年金準備資産の状況比較
図表2:日米年金準備資産の状況比較

*:厚生年金基金、適格退職年金、新確定給付企業年金の合計
**:TIAA-CREF分は除く
***:生命保険のみの数値
(出所)FRB、ICI(米国投信協会)、厚生労働省資料等より大和総研作成

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