実体が見えない円キャリー

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2007年03月12日

  • 小林 卓典

リスク資産からの逃避が完全に収まったと判断するには時期尚早かもしれないが、2月末の中国株式市場の下落から世界の株式市場に波及したショックは沈静化に向かっている。発端は中国株の下落ではあったとしても、より本質的な問題は、米国の景気後退懸念であり、1月の耐久財受注が予想外に減少したことがそのきっかけとなったのは確かだろう。株価急落とともに米国の早期利下げ予想が強まり、円キャリートレードの巻き戻しへの懸念が混乱に拍車をかけた。おそらく1998年のロシア危機が国際金融市場を混乱させ、円キャリートレードの手仕舞いから急速な円高が発生したときの記憶が投資家の頭をよぎったのではないか。

日本の政策当局者が、円キャリートレードの規模について約十数兆円と発言していたが、円キャリーには様々な形態があり、その実体はよく分からない。在日外銀が円資金を調達してヘッジファンドに貸出し、ヘッジファンドが外債に投資するのはその典型といわれるが、外国株や外債ファンドに積極的に投資している日本の個人投資家の行動も、円キャリートレードの一形態である。全体像を正確に把握するのは難しいが、差当たりいえることは、金利差が重要ということだ。そして、日本の超低金利を前提にした円キャリートレードが、世界のリスクマネー供給に大きな影響を与えていると広く信じられている。

今回の混乱が98年と異なって短期で終息に向かったのは、結局、経済のファンダメンタルズに大きな変化は生じていないことを確認できたからだろう。注目された米国の2月の雇用統計は、非農業部門雇用者が9万7000人の増加と2年ぶりの低水準だったが、むしろ景気は堅調に推移しているという印象の方が強まった。そしてFRBが早期に利下げを行うという予想は少し後退している。円ドルレートが118円台に戻ったところを見ると、円キャリーが再開されているのかもしれない。

ただ、今後も実体が見えないだけに、想像の産物としての円キャリーの規模が膨らむほど、ショックに対して過剰反応が起きやすい。今回の株価急落はそのことを示しているようだ。

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