賃金上昇と労働ビッグバン

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2007年03月07日

  • 石原 太郎
2007年は賃金デフレが終息し本格的な賃金上昇の起点の年となろう。所定内賃金は02年2月に始まった戦後最長の景気回復下、00年比で依然低下を続けている。要因は、1)リストラによる賃金削減、1)労働力の非正社員化、3)雇用者層の若年化、4)製造業の海外移転および労働組合の弱体化、である。しかし、少子化、団塊世代の大量退職を目前にして、労働市場は逼迫し始めた。日本企業は00年代に入り労働力の非正社員化を進めてきたが、安定的な労働力確保のため、足元では正社員化へと雇用政策のかじを切っている。新卒社員の初任給等、正社員の賃金は上昇の動きがみられる。製造業の国内回帰、非正社員の労働組合加入増加等も賃金上昇のサポート要因となろう。

賃金上昇により正社員の流動化が進む

賃金上昇は好条件の増加を生み、正社員の流動化を促すため、正社員転職ビジネスのマーケット環境は好転すると予想する。恩恵を強く受けるのは人材紹介、正社員求人広告業である。入社後3年で4割が1社目を辞める新卒採用を日本企業が増加させることにより、中期的に同業界は追い風を受けよう。一方で、正社員の賃金上昇は派遣社員、パート等の正社員化インセンティブを生むため、非正社員ビジネスを行う企業(具体的には人材派遣業)は人材調達が難しくなる。人材派遣業は数量面での大幅な拡大は見込み難く、売上高成長は鈍化ステージに入ろう。調達力の高い企業の選別が株式投資の意味では重要となる。

労働ビッグバン

1月25日に召集された通常国会は「雇用国会」とも呼ばれている。さまざまな雇用関連法案が審議される見通しである。最低賃金の引き上げに加え、パート労働法が改正されるもようであり、賃金上昇につながろう。

7月に経済財政諮問会議から骨子が発表予定の「労働ビッグバン」にも注目。働き方の多様性、労働市場での移動、ステップアップのしやすさおよび不公正な格差の是正を目指す指針が発表される。大和総研で具体的に注目しているのは「派遣期間の延長」「派遣の事前面接の解禁」「外国人労働者の受け入れ」である。実現すれば採用状況が絶えず逼迫している製造請負、軽作業派遣企業にとってフォローとなろう。

労働力人口の推移 ~すでに始まっている労働力の減少~

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