設備投資循環の復活とその行方

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2007年03月05日

  • 尾野 功一
循環が変質した1990年代

日本経済はバブル崩壊の重しがほぼとれ、正常な状態に戻った。なかでも、企業部門は好調で、設備投資意欲は顕著に高まっている。短期的には、設備投資が主導する経済成長が基本シナリオになると考えられる。

だが、より長い期間でみると異なる視点が必要である。バブル経済が崩壊した1990年代以降の設備投資は、1)期待成長率が一方的に低下して、資本ストック(※1)の増加につながる設備投資の伸び率が鈍化するか、あるいは、2)期待成長率が低水準のまま、投資循環が小粒ないしは消滅する、といったような特徴を抱えていた。80年代から90年代初頭までは、安定的な期待成長率のもとで、設備投資が一定の期間で循環する標準的な姿が多くの産業でみられたが、90年代以降はかなり変質したことが示されている。

現在近辺が伸び率のピークとなる可能性も

長期間の停滞を脱し、期待成長率の改善が見込まれる現在では、設備投資の循環が復活すると見込まれる。製造業の設備投資の循環を前年比増減率(2年移動平均)を基に判断すると、4~7年程度の周期で規則的に循環する姿が観測される。これは、主力となる機械型製造業を中心に、製造業の多くの業種にあてはまる特徴である。もし、最近時点の底である02年を起点として、このような過去にみられた循環の傾向に従うと仮定すれば、製造業の設備投資増加率は、06年前後が最新の循環における伸び率のピークとなる可能性がある。

同様の方法で、非製造業(農林水産、鉱業、建設を除く)の循環をみると、80年代から90年代初頭までは製造業と比べて大きな循環を描いている。最近時点の底となる99年、ないしはより小さな循環の底である02年を起点として、90年代初頭までにみられた循環(83~94年の12年間)が再現されると仮定すると、起点から6年後となる05年から08年前後に伸び率のピークを迎える姿が想定される。

このように、製造業、非製造業のいずれの動向から判断しても、中期的な投資循環からみた設備投資の伸びは、現在近辺がピークとなる可能性が示唆される。90年代よりは設備投資の環境は良好であるが、80年代の日本やIT産業が先導した90年代の米国よりも、現在の日本経済の勢いが強いとは考えにくい。短期的には設備投資意欲は高いものの、この先数年間を見通すと、徐々に慎重な姿勢が強まることが予想される。

(※1)企業部門が保有して、生産活動に使用される固定資産を指す。機械、工場、コンピューターなどが含まれる。新規の設備投資が既存の資本ストックの除却(廃棄など)を上回ると、資本ストックは増加する。

設備投資の変化(有形固定資産)

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