三角合併を妨げるもの

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2007年03月02日

  • 吉井 一洋
今年(2007年)5月から、合併の際に存続会社が自社の株式ではなく、親会社の株式を交付する三角合併が可能となる。しかし、海外企業がわが国企業と三角合併を行う際には、税制が大きなハードルになる可能性がある。

合併の場合、原則として被合併会社の資産等を時価評価し評価益に課税する。被合併会社の株主にもみなし配当課税が行われる。しかし、被合併会社の株主に合併会社の株式のみが交付され、かつ、その合併が企業グループ内の合併又は共同事業を行うための合併のいずれかに該当する場合には、適格合併としてこれらの課税は行わないこととしている。三角合併の場合は、合併会社の株式ではなく合併会社の親会社の株式を交付するため、適格合併には該当しない。そこで、2007年度税制改正大綱では、合併の対価として親会社株式のみが交付された場合についても、同一グループ内又は共同事業を行うための合併であれば、適格三角合併として、被合併会社の資産等には評価益課税はしないこととしている。

しかしながら、大綱はその一方で、共同事業を行うための合併に該当するための要件において、制約を設ける方針も示している。共同事業を行うための合併に該当するためにはお互いの「事業」に関連性がある必要がある。大綱では、この事業関連性の要件を明確にすることとしている。問題はその内容だが、これまでのところ、子会社を新設して三角合併する場合は、その子会社は事業を営んでいないため事業関連性がないものとして取り扱う方向である旨が報じられている。このような制約が設けられた場合、海外の企業がわが国の企業と三角合併を行う場合は、子会社を設立してある程度事業を行った後でないと、被合併会社や株主に課税されてしまうことになる。

そもそも三角合併は、海外企業とわが国企業とのクロスボーダーのM&Aを容易にすることを主要な目的の一つとして、解禁されることになった。しかし、海外企業が子会社を新設して三角合併した場合に、被合併会社やその株主に課税されてしまうのでは、海外企業はわが国企業との三角合併に二の足を踏むことになろう。税制が制度の目的と一貫性がとれない制約を設けるのは問題であろう。

もう一つの問題は、上記の制約が、法律ではなく政省令等で設けられるという点である。税法上は、三角合併を行いやすくするよう適格合併の要件を緩和しながら、政省令でそれとは逆の制約を設けるのは、制度を設ける手続き面で問題がある。海外から見てもわが国の制度の制定のプロセスが非常に不透明である印象を与える。

そもそも三角合併は、合併する側も合併される側も株主総会の特別決議が必要であり、敵対的な買収に用いられることはあまり考えられない。いたずらに海外企業によるM&Aに対する危機感をあおり、税制で無用の制約を設けることは避けなければならない。

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