地下鉄事業の経営形態見直しの動き

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2007年02月09日

  • 中里 幸聖

現在、地下鉄事業の経営形態再検討の動きが見られる。

かつての帝都高速度交通営団は2004年に東京地下鉄株式会社(以下、東京メトロ)となり、近い将来の上場を目指している。東京メトロ以外の地下鉄の大半は、現状では地方自治体の交通局が運営しているが、大阪市や横浜市などで民営化も含む経営形態の検討が行われている。

巨額のインフラ投資が必要な地下鉄事業は、世界的に見ても、大都市圏の地方自治体が中心になって整備・運営を実施してきた。しかし、わが国では主要な地下鉄ネットワークはほぼ完成の域に近づいており、既存インフラを前提にいかに効率的に維持運営していくかが重要な課題となってきている。

民間が担いきれない巨大なインフラ投資や長期間にわたるリスクの担い手として徴税権を持つ行政府の果たす役割は大きいが、事業や産業がある程度成熟した段階においては、民間の方が事業運営等に優れていると考えられている。また、わが国では国も地方自治体も厳しい財政状況下にあり、各種事業の効率化は喫緊の課題である。

横浜市では、2003年に外部有識者による「横浜市市営交通事業あり方検討委員会」を設置して、経営形態のあり方も含めた検討が行われた。その結果、地下鉄は最終的には「完全民営化」が望ましいと提言した。この答申を受けて、横浜市として「株式会社」、「上下分離方式」(※1)、「地方独立行政法人」、「改善型公営企業」等の経営形態を比較考量し、2007年度をスタートとして当面は「改善型公営企業」で企業体質強化を図っていくこととなった。なお、改善型公営企業とは、情報開示により透明性を高めて、自主自立した経営の実践、明確な責任体制の構築、新たな企業統治システムの導入などにより、従来以上に民間的な経営感覚を導入した公営企業とのことである。

大阪市も横浜市など他の地方自治体や東京メトロ、JRなどの事例を参照しつつ、2006年に市営交通事業の経営形態の検討を実施し、2007年1月に「大阪市営交通事業の経営形態の検討について(交通局最終とりまとめ)」を公表した。様々な経営形態について、特性やメリット・デメリットを数値データも含めて検討し、「改革型地方公営企業」、「市出資株式会社(市が50%以上の出資を行う株式会社)」、「民間資本株式会社(民間資本が50%以上の出資を行う株式会社)」を今後の選択肢として提示している。

これまでは国の事業の民営化が耳目を集めていたが、横浜市や大阪市の市営交通事業の経営形態検討に見られるように、今後は地方自治体における官民の役割分担見直しが注目される。

(※1)上下分離方式:運行事業主体と施設保有主体に分離する方法のこと。例えば、地下鉄のトンネルや駅舎等のインフラを市交通局が保有し、地下鉄自体の運行は民間事業者に任せるなどの方法が考えられる。

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