再強化へと向かうか 事業会社の株式持ち合い

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2007年02月07日

  • 壁谷 洋和
東証発表の「投資部門別売買状況(三市場1・2部ベース)」によると、2006年1月から12月にかけて、すべての月で買い越しとなった唯一の投資主体は事業会社であった。年間の買い越し額では外国人に及ばないものの、継続的な買いが需給面での下支え要因となったことは間違いない。かつては銀行と並んで、持ち合い解消売りを活発に行ってきた主体であるが、最近になって買い手に転じた背景には自社株買いの積極化がある。年間4兆円前後の自社株買いは、ほぼ定着しつつあり、それが事業会社全体の買いを押し上げている。

しかし、自社株買いの規模に比べて「投資部門別売買状況」における事業会社の買い越し額はそれほど大きくはない。2006年1月から12月にかけて実施された東証上場企業による自社株買いは約4.5兆円だが、同期間における事業会社の買い越し額は2兆円程度に過ぎない。必ずしも自社株買いのすべてが事業会社の売買手口に反映されているわけではないことに一因があるにしろ、両者の差は歴然としている。要は、事業会社は自社株をコンスタントに買い付ける一方で、他社株については依然として売り越しの状態にあるのだ。

そうした「他社株売り越し」の状況も、近年その規模は縮小する傾向にある。売るべき持ち合い株式が減ってきたことも原因の一つに考えられるが、新たな株式持ち合いが増え始めている可能性も否定できない。敵対的買収者の登場が、どの会社にとっても「他人事」ではなくなってきている現状では、その防衛策としての株式持ち合いの再強化は、十分にあり得るシナリオだ。

実態を把握すべく、各社の有価証券報告書から株式の保有状況をまとめたものが下表である。一般に持ち合い株式は「その他有価証券[株式]」に含まれていると考えられ、「取得原価」ベースの残高を見ることで株式持ち合いの様子が大まかに捉えられる。持ち合い解消の流れの中で、2003年度末にかけて減少した事業会社の株式保有は、2004年度以降、徐々に増加していることが見て取れ、特に2005年度以降の増加が顕著である。もちろん、純粋に投資の視点で他社株を取得する動きが増えた可能性もあるが、それ以上に持ち合いの再構築を進めた結果が、そこに現れているように思える。

表 「その他有価証券[株式]」の残高推移(兆円)

(出所)有価証券報告書より大和総研作成 (注)対象は金融を除く東証1・2部上場企業。


さらに、2004年度から2005年度にかけての株式保有状況の変化を業種ごとに見ると、この1年間に株式残高が20%以上増加した業種は、化学・医薬品・鉄鋼・輸送用機器・精密機器・電気ガス・倉庫運輸・情報通信・不動産・サービスの10業種である。そこには再編期待の高まる業種も含まれ、会社側が買収防衛を意識して、株式の相互保有を高めてきた様子がうかがえる。三角合併解禁による業界再編圧力は今後ますます強まることが予想され、こうした株式持ち合いはまだまだ増える可能性がある。持ち合いの再構築にはネガティブな印象がつきまとうが、それが単なる経営の保身にとどまらず、業務提携などを通じたシナジーの発揮によって結果として企業価値の向上につなげられれば、ポジティブな評価を受けることも可能となろう。また、仮に株式持ち合いが強化された場合には、事業会社の他社株売買動向は売り越し額の縮小、ないしは買い越しへの転換となって表れる可能性が高い。それは株式需給に与える影響という意味では、必ずしもネガティブとは言い切れないかも知れない。

 

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