トレーディング技術の進歩が引き起こす特許係争
2007年01月19日
最近、欧米の証券業界では電子取引機能を巡っての特許係争が目立つ。係争の火種は電子化によって優位性がもたらされるようになった分野で生じている。特許係争の主役は、(1)クロス取引を行う証券会社、(2)オプション取引所、(3)トレーディングシステム技術に秀でたコンピュータシステムベンダー、などである。
この三者の共通項は、投資家の投資行動・運用対象が複雑化する過程で注目が高まり、現在最も激しい競争に晒されている点と言える。注目度が高いのは、証券取引プロセスの電子化が必須となりつつあり、ヘッジファンド等が高度なトレーディング技術の実装に積極的なためだ。競争が激しいのは、投資家から売買注文を獲得するのに、複雑な売買手法を速い処理速度かつ低コストで提供して優位性を保ちたい意図が取引所にも証券会社にもあるからだ。特許取得・係争が起こる技術テーマは、証券ビジネスの直近フォーカスと合致している。
これまで、証券業界が進歩性を有する技術の流布に寛大だったという訳ではない。最先端の技法・学問の援用に抜きん出て積極的なことから、トレーディングシステム開発は高度で難しいという意味で「ロケット科学」などと呼ばれている。取引市場を分析し、誰も気が付いていない収益機会を捕捉する技法を編み出せば利益が得られる。しかしマネされれば機会を逸するため、アイデアやノウハウは社内で秘匿された。しかも、技法の陳腐化スピードが速いため、時間の掛かる特許申請などには注意を払わないのが通例だった。
しかし、証券取引の電子化が進展すると状況は大きく変わり始めた。売買場所を取引所のみに制限する市場集中義務が撤廃された後、情報技術が発達し、規制緩和が進むと、取引所と同様のサービスを低コストで提供できるようになった。リアルタイムの取引処理やデータ伝送が技術革新で実現し、取引所でなくても公正かつ透明性の高い取引が可能になっている。いまや証券会社や周辺企業は、こぞって取引執行機能を提供し、安価な手数料や取引所には無かったサービスを武器とする取引所外取引を行うことができる。ウォール街の大手証券会社が、ニューヨーク証券取引所やナスダックなどの主要取引所を回避して取引執行しようとする動きは今後も増加するとみられている。
その結果、取引所でも証券会社でも、投資家の売買注文を如何に手許に引き寄せるかが競争の鍵となった。売買注文を集めるための手段として、トレーディングシステムの企業間接続や技術提携が進み、自社技術の外部提供機会が増えている。従来は内部利用のみだったノウハウを外部にも見せることで、マネをされる危険が増したため、事業戦略価値のある知的財産の防衛が重視されるようになったのだ。電子証券取引における特許係争が頻発しはじめたのは、このような理由からである。
全世界レベルで取引所再編が進みつつある中、電子取引に関する特許係争は今後も増えることになろう。ビジネスチャンスには抜け目の無いウォール街のこと、特許ビジネスとして、より過激な取組みがなされることも予想できる。
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