世界のIPO(新規株式公開)市場の潮流

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2007年01月18日

  • 篠原 春彦

出光興産、ミクシィといった大型上場が話題を集めた2006年の日本の新規株式公開(IPO)市場。ジャスダックやマザーズといった新興市場を含めた公開件数は2005年の158件に対して188社と約30社増え、過去二番目の高水準となった。ただし、世界的な視点からみるとIPOによる企業の資金調達額では、日本のIPO市場は他の先進国市場などに大きく水をあけられている。株式を新規に公開した企業の資金調達総額が、2006年には世界全体で(※1)2,180億ドルを記録したのに対して、日本は102億ドル(東証のみ)と世界全体に占める割合は5%弱に留まっているというのが実情である。

一方、近年、大きく存在感を増しているのが、香港と上海の証券取引所である。2006年1-10月の香港と上海の取引所におけるIPOの資金調達合計額が431億ドルに達し、ロンドン証券取引所(405億ドル) 、ニューヨーク証券取引所とナスダックの合計額(383億ドル)を抜いて世界トップとなった。5年前には、ニューヨーク市場が460億ドル、ロンドン市場が140億ドルと、ニューヨーク市場が以前は世界の金融市場の中心として断トツの規模を誇っていた点からすれば、ロンドン市場の台頭も含め、世界のIPO市場の勢力図は大きく変化したと言えよう。

今、世界のIPO市場の潮流は、中国、ロシア、インドにブラジルを加えた大型の「BRICs」企業の誘致に熱い視線が集まっている。先進国市場では、自国の優良大型企業や民営化企業は、既に公開してしまっているだけに、民営化企業が多く成長性も高い「BRICs」企業を誘致することで市場を活性化させたいという思惑がある。香港や上海の取引所でIPOが急増したのも、2006年には中国の4大国有銀行のうち中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行が、華僑経済圏である香港でIPOしたこと(中国工商銀行は上海との同時上場)が調達額を拡大させた。特に中国工商銀行はこれまで最高であったNTTドコモの181億ドルを越える220億ドルを調達した。ロンドン市場の台頭も、石油大手のロスネフチなどロシア企業の公開ラッシュが大きく後押をした。

残念ながら東証はこうした有望企業の取り込みなど、世界の潮流には完全に乗り切れていない。外国企業としては、昨年の12月には韓国の鉄鋼最大手ポスコ以来約1年1ヶ月ぶりに英国の調査会社であるジャパンインベスト・グループ(JG)の上場があったが、「BRICs」企業の取り込みは1社も実現しなかった。東証は昨年12月には外国部に相当する「マザーズ・グローバル」を発足させるなど外国企業の誘致には力を入れている。成長資金を求める世界の新興企業と投資家ニーズが合致、世界のIPO市場が活性化している中にあって、日本市場が存在感を示すことは火急の課題である。

(※1)ドルベースの数値についての出所は、英米系の調査会社「ディーロジック(Dealogic)」の報道数値

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