中国返還後10年目を迎えた香港

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2007年01月09日

  • 牧野 正俊

1997年に香港が中国に返還されてから今年で10年目である。返還当時は、いわゆる「香港の中国化」が悲観的に語られることもあったが、最近の香港の景気好調ぶりを見る限り、香港と中国の関係が一層緊密化したことが、香港経済にポジティブに働いたことは間違いない。

勿論、過去10年間の香港経済が順風満帆だったわけではない。98年の通貨危機、2001年のITバブル崩壊などの際には、大幅な景気後退に見舞われている。にもかかわらず、すばやく立ち直ることができたのは、香港経済が、外部環境の好転を享受できる開放経済であったことに加え、中国本土が対外開放を進めるに際して、香港の中継貿易、金融仲介機能を最大限に利用したことが背景にあると考えられる。

特に、2001年12月の中国のWTO加盟は、中国自身の高成長ばかりでなく、香港の景気拡大にも大きく貢献した。2002年以降、中国の実質GDP成長率は、輸出と固定資本投資の大幅な伸長で、年平均10%に高まったが、同じ時期、香港も平均5.5%の成長を達成した。香港がこうした高い成長率を持続したのは、80年代後半以来、実に18年ぶりである。

株式市場の活況も中国に負うところが大きい。外資の参入を目前にして資本力増強を迫られた中国の国有銀行など、本土企業が相次いで香港株式市場に上場。この結果、06年の香港市場における総資金調達額は638億米ドルにした。このうちの約7割が中国本土系企業によるものである。香港株式市場を代表する銘柄で構成されるハンセン指数も、既にウェイトにして40%近くが中国企業である。

結局、この10年に起きたことは、「香港の中国化」というよりもむしろ、中国がグローバル経済の一翼を担う重要なメンバーとしてそのプレゼンスが高めたこと、すなわち「中国のグローバル化」であった。これが、香港に多大な恩恵をもたらしたといえよう。

香港特別行政区基本法の第5条では、返還後、香港の社会・経済制度及び生活様式の維持を50年間保証する、と謳っている。残りはあと40年。その40年後には、中国のGDP規模が米国を凌駕するとも言われている。香港にとって次の40年は、むしろこうした中国のスピードにいかについていくか、が問われる時代となろう。

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