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なぜ景気の成熟化が進みにくいのか

~投資戦略面では強い企業周りにフォーカス ~

2006年12月26日

三宅 一弘

2002年以降、日本経済が改善、拡大トレンドを辿っている基本構図は、構造問題の処理を完了した企業や銀行が経営変革を進める中で、過去最高水準の収益・キャッシュフローを稼ぎだし、それらが雇用・所得環境の改善を通じて消費拡大につながりだしたこと、設備投資に関しても、キャッシュフローの改善、収益力アップの中で、新規投資や更新投資の拡大につながっているためである。加えて、アジアなど世界経済が好況で日本は輸出増加を通じて(あるいは分業体制の確立を通じて)恩恵を享受していることによる。

ただし、それぞれのルートの拡大・回復ペースに格差が生じ、好調な企業部門(設備投資、輸出)から家計部門(消費など)へのシフトが遅れている(いわゆる「景気の成熟化」が進んでいない)。なぜ、景気の成熟化が進まず、企業周りの好調、家計周りの低迷といった明暗二極化の構図が継続しそうなのか。それにはいくつかの構造要因が強く影響しているとみられる。

中国など巨大新興国の台頭やグローバル化といった世界経済の地殻変動が日本経済の明暗二極化に大きな影響を及ぼしていると推察される。雇用者所得(雇用者数×現金給与額)の伸びは1~2%程度と緩やかな伸びにとどまっている。特に賃金の伸びが緩慢である(伸びていない)。これには、日本企業が大きな方向性として、低賃金・巨大労働市場を抱える中国など巨大新興国とのコスト競争上、賃金面で抑制的な姿勢を堅持していることが挙げられよう。加えて、国内面では相対的に高給をとっている団塊世代の退職が徐々に始まっており、団塊世代(ハイサラリー層)の退職と若者世代(ローサラリー層)の雇用促進という人口動態面での雇用構造の変化が総計としての賃金上昇率を抑えている(同世代内での賃金は上昇傾向とみられるが、このような効果よりも上記のような人口動態面での雇用構造の変化が賃金の伸びを抑制していると推察される)。企業の雇用政策自体は着実に前向きになっているため、雇用者所得が下ブレするとは思わないが、ただし、上記の2つの見方が正しいならば、雇用者所得の伸びは1~2%程度の緩やかな拡大基調が継続しそうである。所得・雇用環境の改善が緩やかであれば、消費の伸びも総じて緩やかな伸びにとどまりそうである。

一方、巨大新興国では所得拡大が消費ブームにつながると同時に、インフラ投資ブームが根強く続いており、日本企業が得意とする資本財や素材・部材、あるいは自動車などの耐久消費財に対して旺盛な需要があり、日本企業・日本経済に輸出や現地生産、国内での設備投資などを通じて大きな恩恵をもたらしている。関連する企業群は収益好調を謳歌し、特に輸出関連企業や多国籍企業の収益が押し上げられている。

加えて、所得・雇用環境の改善が緩やかで、消費の伸びが緩慢なため、日銀は利上げの説得的理由を失い利上げが後ズレする可能性を高めると同時に、為替市場では円安余地が大きくなっている。さらに団塊世代の退職が07年から本格化するが、退職者の資金運用先として外債や外債ファンドなど、高利回り金融商品に資金を振り向ける傾向が強く、為替の円安をもたらす公算が大きい。為替の円安は輸出関連企業や多国籍企業の収益を一段と押し上げることになる。

このようにみると、景気の成熟化は進みにくい中で、企業収益は外需関連企業や設備投資関連企業などを中心に高い増収率と単位労働コストの低い伸びの組み合わせが続き、高い増益率が堅持されそうである。外需関連企業の好調と円安の組み合わせは、大企業・製造業の好況を示唆し、株式の物色面では大型株優位になりやすい。逆に消費などの内需関連企業と円高の組み合わせは、中小企業・非製造業などにも広く恩恵をもたらし、中小型株優位になりやすいが、上述の構図が続けば、外需関連中心に大型株優位の展開になりそうだ。内需に関しても、企業活動の活発化に関連する設備投資(含む情報サービス投資、R&D投資)やオフィス需要(都心不動産)などが恩恵を受けるとみられる。

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