「頑張る地方応援プログラム」について

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2006年12月08日

  • 星野 菜穂子
今年9月に安倍政権が誕生し、地域活性化のための施策として2007年度から「頑張る地方応援プログラム」が実施される方針である。具体的には、「地方の頑張りの成果」を地方交付税算定に反映させるというものである。これは一般にインセンティブ算定といわれている。

このような動きの背景として、格差是正が政治的テーマとなる中、地域活性化がその一環とされていることの他、地方交付税自体が地方のインセンティブを欠如させているとの認識があるものとみられる。地方交付税が財政需要と収入の差額補てんの仕組みであるため、地方団体の財政健全化意欲を削ぎ、歳出総額が膨んでいる、あるいは、地方税収が増えると地方交付税が減るため税収増のためのインセンティブが働かない等々、地方交付税をインセンティブ論から批判する議論は多い。これらの中には十分な実証に基づかないものや誤解によるものも多いが、近年、地方交付税における経常経費の算定にインセンティブ算定を盛り込む動きが出てきている。

いわゆるインセンティブ算定は、これまで投資的経費を対象とした事業費補正等が典型であった。これは公共事業の地方負担等の実績に応じて基準財政需要額を割増すという措置で、国の景気対策に貢献してきた面はあるものの、公共事業偏重や地方の‘モラルハザード’への批判とともに近年は見直しの方向にある。一方、2005年度から、経常経費を対象に行革インセンティブ算定が行われるようになった。歳出削減の取組や徴税強化の取組に応じて算定を行うというもので、2006年度は、さらに行革努力の実績が地域振興関係経費に反映される算定となっている。今回の「頑張る地方応援プログラム」もこれらの延長上に位置づけられ、まだ検討中であるが例えば出生率や就業率など「地方の頑張りの成果」に応じて交付税算定額を増加させるという、インセンティブ算定の拡充を図るものである。だが、このようなインセンティブ算定には問題も多い。地域によって‘頑張るべき’政策課題は異なっており、頑張ったかどうかは地域住民が地域のニーズに応じて決めることで、一律の指標によっては測れない。また何より、地方交付税の算定においては中立性が重視されるべきであるのに、インセンティブ算定はそれを侵害し、国の政策誘導につながりかねない面があることである。

地方分権推進の下、財政調整制度の役割は益々重要となってくる。今後、地方交付税の算定には「新型交付税」も導入されることになっており、これらを含む見直しの方向性について十分注視していく必要があろう。

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