2つの税制調査会

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2006年12月06日

  • 古頭 尚志
早いもので今年も師走を迎えた。クリスマスに年賀状の準備、年末の大掃除、帰省のためのチケットの確保等、誰もが慌ただしい時期である。慌ただしいという意味では税制の分野も同様で、税制改正に向けた議論が大詰めを迎える時期でもある。当然に世間の注目も集まるわけだが、今年は関心の対象が税制改正の中身そのものだけでなく、今後の税制改正や税制改革に向けた主導権争いの行方にも及んでいるように思われる。

従来、税制改正の主導権は自民党内の組織である自民党税制調査会(自民税調)が掌握してきた。「税制調査会(税調)」という用語は、一般に自民税調と首相の諮問機関である政府税制調査会(政府税調)を指すものとして定着している。政府税調は中長期的視点からあるべき税制の検討を行い、税制改正の大枠を示すことを使命としてきた。一方、自民税調は、政府税調の示した大枠に対し、独自の項目を付け加えたり、時にはその枠を否定しながら、具体的な税制改正の内容を最終決定する役割を担ってきた。政府税調が優位に立っていた時期もあるようだが、自民税調が主導権を握り、圧倒的な権限を行使するという体制が長らく続いてきた。

しかし、この体制に変化が生じるという見方が強まっており、それを後押しする材料も少なくない。例えば、官邸主導による政府税調会長の交代、首相官邸・経済財政諮問会議・政府税調の連携や政府税調事務局機能の強化、自民税調の非公式幹部会「インナー」のメンバーであり自民税調の会長であった柳沢伯夫氏の入閣(厚生労働相)、同じく小委員長の要職にあった伊吹文明氏の入閣(文部科学相)、「インナー」経験の無い与謝野馨前経済財政担当相の自民税調会長就任(辞任により現在は津島雄二会長)など・・・。こうした一連の動きからは、「上げ潮」路線を標榜する首相官邸の意向を踏まえた税制改正・税制改革の議論を、政府税調や経済財政諮問会議を通じて積極的に行わせ、自民税調から主導権を奪取しようとする官邸サイドの狙いが見え隠れする。

では、こうした試みはうまくいくだろうか。人によって意見は違うだろうが、少なくとも近い将来において、自民税調が最終決定権を失うような事態は起こらないのではないか。与謝野前会長の辞任を受けて新会長となった津島会長は、2003年11月から2年間会長を務めた重鎮。すでに「最終的に決めるのは選挙で国民に選ばれた与党であり、自民税調および与党税調である」との考えを繰返し述べている。官邸側との調整に柔軟な姿勢も見せているが、言うべきことは言う、最終的な決定権は自民税調にあるとの立場を崩していない。

また、成長重視の「上げ潮」路線が、税の面で国民の理解を得られるのか、という問題もある。政府税調の前会長であった石弘光氏は、退任後に行った新聞各紙のインタビューなどで、歳出削減と自然増収に依存した財政再建は不可能であり、法人減税への偏重を危惧するコメントを発した。法人減税を重点的に進める一方で、消費税率の引上げ等によって家計の税負担が増えるとすれば、各方面から反発の声が上がるのは必至だろう。法人減税の一部は従業員にも還元されるというのが建前だが、目に見える形で説明できなければ説得力に欠ける。また、「骨太の方針」に明記された「2011年度の基礎的財政収支の黒字化」は本当に実現可能なのか、という懸念もある。法人減税の先行が財政再建の遅れを招くようでは困るのである。

官邸のバックアップにより、政府税調が財務省や総務省から自立を図った点は評価すべきである。また、法人減税によって企業の国際競争力を高め、高い経済成長を実現することも重要だ。しかし、最終的にどのように税制を組み立てるかを決める段階では、国民感情を意識した調整も必要になってくる。自民税調については「決定プロセスが不透明」という問題も指摘されるが、その存在意義はまだまだ大きいように思われる。

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