海外中央銀行の円買い
2006年11月13日
通貨ルーブルを一定範囲内でドルに連動させていたロシアは、2005年2月にドルとユーロの通貨バスケット制を採用し、それ以来、通貨バスケットや外貨準備に占めるドルの比率を下げ、ユーロの比率を上げてきた。貿易における欧州の割合が大きく、輸入代金をユーロで支払うケースが多いので、ルーブルをドルに連動させていると、ユーロ高・ドル安になった場合、輸入支払の負担が増して購買力低下やインフレにつながってしまうからだ。また、通貨バスケット制の下でドル安が進むと、外貨準備のルーブル建て価値が目減りしてしまうため、外貨準備もバスケット・ウエイトにある程度連動させる必要が生じたのである。当初ドル90%、ユーロ10%で始まったバスケット・ウエイトは、05年12月にドル60%、ユーロ40%となり、外貨準備は06年7月にドル50%程度、ユーロ40%程度、英ポンド10%程度となったようだ。ロシアの対日貿易は全体の2.6%に過ぎないので、その面から円を外貨準備に組み入れる必要性は低いが、それでも組み入れたのは、割安な円を加えて為替リスクを抑えることが狙いのようである。
新興国の外貨準備は急増しており、世界に占める比率は1995年末が53%、2000年末が60%だったが、06年6月末には71%に達している。近年、外貨準備に占めるドルの比率が低下し、ユーロの比率が上昇してきたのも、新興国によるものだ。ロシアは、エネルギー高による貿易黒字拡大と対内直接投資の増加によって海外から資本が大量に流入し、ルーブル高を防ぐ為替介入とともに外貨準備が積み上がっている。中国、日本に次ぐ世界第3位の外貨準備(9月末2662億ドル)を保有し、世界の外貨準備の通貨構成にも大きな影響を持つようになった。ロシアの円組み入れは、世界の外貨準備の3%強にまで低下した円比率の上昇に結びつく可能性がある。この他にも、スイス中銀が外貨準備のドル比率を下げる一方で、円比率を6月末の3%から9月末に4.9%に引き上げ、UAE中銀が98%を占めるドル比率を今後50~90%に下げ、ユーロ、円、ポンドの比率を引き上げると表明した。
今後は、世界最大の外貨準備(9月末9879億ドル)を保有する中国などの動向が注目される。中国は、通貨バスケット(主要通貨はドル、ユーロ、円、ウォン)を参考にした管理変動相場制であるうえ、人民元をドルに対し着実に切り上げているので、外貨準備に占めるドルの比率を下げる必要がある。中国までもが為替リスクや貿易量を考慮して円準備を増やし始めると、円相場には大きなプラスのインパクトを与えることになろう。
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