TOB制度見直しの注目点

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2006年09月05日

証券取引法を金融商品取引法に全面的に改組する「証券取引法等改正法」が成立してからまもなく3ヵ月となる。既に第一弾として、インサイダー取引等に対する罰則強化などが7月から実施されている。更に、第二弾として、TOB規制の見直しが(本稿執筆時点で正確な日程は未定だが)今秋にも実施される見通しである。実施に向けた細則を定める政省令案の公表も近日中に行われるであろう。

それでは、TOB規制見直しの細則について最も注目される点は何であろうか?もちろん、実務レベルでは、TOB期間、TOBの撤回・条件変更要件、公開買付届出書の開示内容などが具体的にどのようになるのかといったことも極めて重要なポイントである。しかし、より大局的な立場から見れば、「どこまでがTOB規制の対象となり、どこまでがTOB規制の対象外となるのか」という具体的な線引き・基準が最大の注目点であろう。

今回のTOB規制の見直しには、意図的なTOB逃れを封じるための措置が盛り込まれている。具体的には、市場内外にまたがった一連の大規模買付行為、TOB実施期間中における1/3超を保有する別の株主による追加買付行為などが、TOB規制の対象として明記された。

これらは言うまでもなく、ライブドアや村上ファンドによる一連の事件を受けたものである。そのため、今回の法改正の趣旨自体については、反対する声はほとんど聞こえてこない。問題となるのは「一連の大規模買付行為」や「追加買付行為」をどのような線引き・基準で定義するか、ということである。過度に厳しい基準を定めれば、純粋に「運用目的」で行われる証券会社や機関投資家による大口取引も影響を受ける危険性がある。しかし、余りに緩やかな基準を定めれば、実効性のある規制を行うことはできず、TOB逃れを封じ込めることは難しくなる。

わが国の法体系(成文法・限定列挙主義)の下では、これらの点についても「○ヶ月間で○%を超える取得」などといった具体的な線引き・基準を設けなければならない。そして、そうした定め方を行う以上、ボーダーライン上の取引を巡る問題・トラブルは必ず起こるだろう。しかし、法体系そのものの見直しを一朝一夕に行うことは現実的でない。その意味で、当局に求められるのは、一度決めた線引き・基準について、常に現実離れしたものになっていないかをチェックし、必要があれば速やかに見直しを行う姿勢ということになろう。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳