リース会計試案による影響

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2006年08月24日

  • 吉井 一洋

企業会計基準委員会が2006年7月5日に公表したリースの会計基準試案に対するコメントの締め切りが、明日に迫っている。現行のリース会計では、所有権移転外のファイナンス・リースについて、賃貸借処理によること認めている。賃貸借処理すれば、借り手は、リース資産をオンバランスしなくてよい。損益計算書上もリース料の支払額をそのまま費用として計上すればよい。したがって、ほとんどすべての企業が、所有権移転外のファイナンス・リースについては賃貸借処理を選択している。今回の会計基準試案は、これを売買処理に一本化するというものである。

ただし、売買処理に一本化するといいつつも、リース業界や産業界の要望等に応じて、例外的な処理を認めている。リース期間が1年以下の短期のものやリース契約1件あたりのリース料総額が300万円以下の場合は、従来どおり、賃貸借処理によることを認めている。これにより、中小企業のユーザーは、リース資産のオンバランス化を回避できる。保有するリース資産の割合が保有する固定資産の10%未満である場合は、オンバランスではあるものの、費用計上の方法が従来と実質的に同じとなる簡便法の適用を認めており、上場企業の8割はこの簡便法の適用対象となる。したがって、会計上の影響はかなり緩和されており、税制がどうなるか、即ち、会計と合せて税務も売買処理となった場合に、リース期間での前倒しの減価償却が認められるかなどに関心は移りつつある。

リース会社は、税制について楽観的に見ているのか、機関投資家に対しては今回のリース会計基準試案の影響はほとんど無いと説明している模様である。しかし、リースに節税的な面があることは税務当局は充分に認識しており、リース業界の要望をそのまま受け入れるとは考えづらい。法人税の減価償却制度そのものの見直しも検討されており、償却期間が短期化されれば、リースによる早期償却のメリットも相対的に小さくなる。会計・税制が変わっても、一度に多額の資金を調達することなく設備投資ができるというリースのメリットが無くなるわけではない。しかし、会計上のオフバランス化や税務上のリース期間での早期償却にメリットを感じて取引している利用者も多数存在するわけであり、相応の影響は受けざるを得ないであろう。今回の会計基準試案では、税制上の取り扱いがどうなるか見極める意味もあって、適用時期を明確に定めておらず、今後、リース税制がどのように変わるか注目されるところである。

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