平成7年環境白書から

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2006年08月17日

  • 牧野 潤一

筆者が最近目を通した平成7年の環境白書はとても興味深かった。文明の盛衰を環境問題という視点で捉え、持続的な文明からの教訓について言及している。いわば先人の知恵に学ぶというものだ。

人類の文明が環境に影響を与え、その結果当時の文明が対応できない程度に環境が変化し、滅んでいった例をあげている。例えば、メソポタミア文明は肥沃な河川に人々が集中し、人口増加とともに森林の破壊が進み、気候の乾燥化、土壌の塩害化も手伝って食糧不足に陥り衰退の途を辿っていく。あるいはクレタ文明やギリシア文明は森林破壊が著しく、そのために土砂流出や木材資源不足により、ここでの繁栄は次第に別な地域へと移っていってしまった。

白書はさらに踏み込んで、具体的な先人の教訓について述べている。アイヌの人々は、狩猟や漁猟によって得られるものは、神からの恵みとして取り尽くさず他の生物の取り分を残しておく狩猟採取習慣があったと言われている。インディアンは、自然が循環するという「輪の思想」や「輪の哲学」を持っていた。これは先祖が新しい投槍でたちまちのうちにマンモスなどの大型獣を絶滅させてしまったことから、学習し自然と共生する術を長い年月の間に身につけていったからだと言う。これらに共通するのは、人間が自然を利用し、資源を採取する際には、限られた資源を消耗し尽さず自然の生態系の営みを維持しながらこれと共存して持続的に利用するという抑制の利いた行動様式である。

現代社会においては、作る主体、消費する主体が分離し、それぞれが部分最適化を図るために、全体的な抑制が効き難くなっている。世界的にガソリン価格が上昇する中、代替手段としてサトウキビを原料としたエタノール燃料が注目されているが、生産国のブラジルでは森林伐採が広がっているという。生態系を破壊する行為を繰り返していく、西洋文明を下敷きにしている現代文明の限界がみえてくる。現在の1次産品価格の高騰はそうした資源浪費に対する警告とも言え、専門家の中には将来的に資源戦争の多発を懸念する人もいる。

日本は省エネ・環境技術で世界に貢献することが期待されるが、さらに京都議定書以降(2012年以降)の枠組みについても主導的な役割が求められる。

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