ジダンの失態

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2006年08月03日

  • 中島 節子
Wカップの決勝戦は日本時間午前3時にキックオフ。イタリア アズーリの勝利見たさにテレビを付けたものの、膠着状態のゲーム展開に私はうつらうつらしていた。

延長戦の後半、テレビ解説者の声のトーンが突然変わった。試合の流れ以外で何かが動いている。

「ブフォン(イタリア GK)が見てくれ、と言っています。あれを見なかったのか、と激しく主審に訴えています」

テレビ中継者も観客も、そしてテレビの前の私も何のことだかわからない状態の最中に、あのジダンの頭突きの場面が画面一杯に映し出された。レッドカードが高々と掲げられジダンは一発退場。「イタリアは勝てる!」と私の目は一気に覚めた。それぐらい強烈なレッドカードだった。

決勝戦はイタリアの勝利に終わったが、決勝戦のハイライトはイタリアWカップ優勝よりもジダンの頭突きの真相が大きく取り上げられ、人種差別問題に発展するかの勢いであった。が、1週間もたてば、ジダンが頭突きに至った理由など人々の興味を引くものではなく、あの映像だけが残る結果となった。最終的にジダンのMVPは取り消されなかったが、MVPはフェアプレーも含めて最優秀選手に与えられるはずの賞ではなかったか。たった1回の、ほんの数秒の出来事が、何年も積み重ね築きあげてきた彼の像を一蹴、いや一頭にして崩してしまったのだった。

昨今、企業も突然バタッと倒れてしまうケースが多くなっている。その原因は本業の不振というより内部における不祥事。サッカー選手が自らのルール違反でレッドカードをもらって退場させられるように、企業もルール違反で自滅してしまうのだ。ルールを知らないわけではないが、グレーゾーンを悪用したり、勝手に「これぐらいは大丈夫」と限界ラインを緩めている。

ただ、サッカー選手ジダンの最終ページはどこまでいっても「頭突き」で終わるのとは違って、企業には最終ページを続編に変更し、更新できる可能性がある。市場から退場させられても、また一からやり直し、過去と同等に、またはそれ以上に成長することができるのだ。企業会計がゴーイングコンサーンを念頭に行われていることをみても、企業には明日の可能性を常にもたせている。が、一度傾いた企業には、粉飾決算の○○、リコール隠しの××、偽造の△△とネガティブな接頭語がつきまとい、短く簡単な言葉ゆえに人々の頭からこれを払拭するには並々ならぬ努力、忍耐、そして時間が要求されるのだ。この試練をゴーイングコンサーンの営みの中に飲み込んでいけるかどうかに企業の潜在能力が試されることになるだろう。

もっとも復活可能といっても困難な道のり。本当の潜在能力とはちらついたイエローカードに気付いて、内部から軌道修正できる、ことだろうか。

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