投資課税の新しい方法を模索するドイツ
2006年07月28日
ドイツで投資収益課税が議論の的になろうとしている。発端は7月12日に政府が発表した2008年の税制改革案である。その目玉は企業の税負担軽減で、現行の法人税+地方営業税で平均39%に上る税負担を、30%以下にする計画。企業の税負担を50億ユーロ削減することを目指している。ただし、財政赤字を増やすわけにはいかないため、優遇税制措置の廃止などを通じて、歳入増も図られる見込み。
その一つが利子、配当、キャピタルゲインに関する課税方法の変更である。表向きはこれらの投資収益に対する課税を一本化し、簡素化することがうたわれている。正式な法案は秋に提出の予定だが、今回明らかになった骨子によれば、利子・配当・キャピタルゲインは一括して分離課税の対象となり、30%の税率で一律に源泉徴収される(2009年以降は税率25%)。新しい課税方法は2008年初めから適用予定で、優遇措置であった配当の半額課税、キャピタルゲインの非課税措置は廃止される。なお、所得税率が30%以下の個人は、還付請求によって差額の返還を求めることができる。ただ、課税方法の簡素化を強調していても、ねらいは税収増加である。
確かに現行法では、利子は総合課税、配当は半額が総合課税、キャピタルゲインは保有期間が1年未満の場合は総合課税、1年以上は非課税とばらばらな課税になっており、手続きが煩雑である。とはいえ、このような制度になったのは、証券投資、特に株式投資を奨励するためにさまざまな改革が実施され、複雑化してしまった事情がある。投資奨励が図られたのは、公的年金財政が悪化する中で、老後の所得確保に関して自助努力を促すことが目的であった。既にドイツ投資信託協会や個人株主保護団体などが、年金目的で投資されている資金に関して特別扱いを求めているが、今秋の法案を詰める段階では、どこに優先順位をおくのか、十分な検討が必要になろう。ドイツ政府にとっては、財政赤字削減は重要な課題である。また、企業の税負担軽減を実施しなければ、中東欧などの周辺諸国との間で競争力の低下が進んでしまう。しかし、一方で困窮する高齢者世帯を多数作り出す結果になれば、元も子もないのである。
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