日本のエネルギー安全保障

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2006年07月13日

  • 佐藤 清一郎
世界的に、エネルギーの重要性が高まっている。 今月、ロシアのサンクトペテルブルクで開催されるG8サミットでも、エネルギー問題は、重要課題の一つとして取り上げられる。こうした背後には、先進国の順調な経済拡大に加え、新興地域の急激な成長で、エネルギー需給が逼迫し、価格が上昇してきていることがある。

世界的には、かなり注目されているエネルギー問題だが、日本では、その認識がやや薄い気がする。理由の一つには、日本は、省エネ的な経済体質を確立し、エネルギー効率は先進国トップレベルであり、難局がきても何とか打開できるだろうという漠然とした思いがあるかもしれない。

エネルギーへのこだわりの違いを痛感させられるのが、日本と中国のエネルギー確保への対応である。日本のエネルギー政策の戦略目標を見ると、(1)エネルギー安全保障を確立し、国民経済に安全・安心を提供、(2)エネルギー問題と環境問題の同時解決による持続可能な成長基盤の確立、(3)アジア・世界のエネルギー需給問題克服への貢献というように、世界全体を見据えた立場をとっており、日本自らのエネルギーへのこだわりが、やや薄い印象を受ける。

こうした一方で、中国のエネルギー政策目標の中には、海外での積極的な資源権益の確保が、盛り込まれている。高成長が続く中国だから、いくらエネルギーがあっても足りないということで、日本とは、置かれた環境が異なるとは言え、エネルギーへの強い執着が、見て取れる。中国は、自らの目標達成に向けて、アフリカへの積極的ODAや旧ソ連圏の資源保有国との交流などを通じて、エネルギー権益確保に積極的な動きを見せている。

日本の中東への原油依存は、相変わらず8割を超えている。東西冷戦下では、これほどの中東依存は、仕方なかった面もあるが、現在は、やや奇妙に写る。世界情勢が大きく変化しているのに、日本は、相変わらず、エネルギー確保の地域分散ができていないのだ。いくら省エネに成功して、必要エネルギー量が少ないといっても、一極集中は、明らかにリスクである。地域分散を踏まえた、エネルギー確保に、もっと、注力すべきだろう。

日本の近隣を眺めれば、ロシアを含め、旧ソ連圏の資源保有国が存在するのだから、エネルギー確保の地域分散は可能なはずである。現状、ロシアとの政治経済関係は、領土問題などがネックとなって、それ程の進展を見せていない。今後、中国やインドなどの経済発展を受け、東アジアの政治・経済地図が大きく変貌する可能性があることを考えると、ロシアとの関係は、できるだけ早期に改善しておくことが好ましい。

関係改善には、領土問題解決がキーポイントになるが、その場合、領土問題のみに固執するのは、それ程得策とは言えない。むしろ、経済・文化等を含む包括的アプローチの中で、良好な関係を構築する方向を模索すべきである。一見、焦点がずれているような印象にもなるが、それが、将来的には、関係改善を生み、日本のエネルギー安全保障にもプラスに作用するだろう。

日本は、エネルギー問題関連への対応は、優等生の部類に属すると思われるが、エネルギーの重要性が叫ばれている今、日本として、どう対処するのかを、再度、考えてみるのも必要なことではないか。

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