医療制度改革と施設介護サービス

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2006年07月10日

  • 浅野 信久
2006年6月14日に医療制度改革法が成立した。本改革法には、70~74歳以上の高齢者の医療費窓口負担増、75歳以上の後期高齢者医療保険制度や社会医療福祉法人の創設など、数多くの改革の重要事項が盛り込まれている。本改革法の対象は文字通り医療制度であるが、介護福祉サービスにも影響する事項が盛り込まれている。

例えば、本改革法成立により決定された、2011年4月からの病院における長期療養のための病床(ベッド)である療養病床の廃止についてである。廃止とあるが、実際には病床は消滅するわけではない。これらの病床は、まず老人保健施設(介護老人保健施設)、あるいは特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)など、公的介護福祉関連施設へと転換が図られる計画である。急性期医療に特化しない病院は、いやがおうでも、今後、医療から介護福祉分野に経営の軸足を一層移すことになる。だが、やみくもに再編させるのではない。地域ニーズを無視しては、既存の施設介護福祉サービス基盤に混乱を招く。このため、厚生労働省は地域ケア整備指針を策定し、2007年夏を目途に都道府県が作成する「地域ケア整備構想」の支援をまず行うと、2006年6月13日の参議院厚生労働委員会の質疑に答弁している(日本医事新報)。療養病床の再編で、現在、不足がちとされる施設介護サービスの充実が図られることを期待したい。

ところで、少子高齢化時代を迎え、医療と同様に、財源の確保と増え続ける費用の増大に担当官が頭を悩ましている点は、高齢者介護行政の分野においても例外ではない。このことは、先進各国に共通な国際的課題でもある。各国では、介護改革が実行されている(先進国の高齢者介護については、より詳細に知りたい方は、OECD東京センターから加盟各国の高齢者介護に関する報告書「OECDヘルスプロジェクト・高齢者介護」が入手できるので参考にされたい)。例えば、福祉サービスの水準が高いとされるスウェーデンをはじめとする北欧諸国でさえも、すべてのニーズに、税金負担方式により無償で答える制度から、より必要とされる要介護者に重点的にサービスを行う方向へと転換しはじめている。また、介護サービスにおいては居宅介護サービスが重視されはじめている。比較的高額な費用を要すると考えられる施設介護を提供するよりは、むしろできるだけ高齢者の方々が居宅で生活できるような支援、すなわち居宅介護サービスの充実を張るべきというのが介護サービスのあり方に対する各国に共通な方針となっている。「要介護高齢者はできるうる限り、居宅ないし家族と生活する」というのが国際標準の取り組み姿勢で、この方が財政的負担も軽減されると考えられている。

この国際的潮流に、日本も将来的には呼応してくると見るならば、公的介護と私費介護の二本立ての介護サービス構造が将来像の1つとして浮かび上がってくる。つまり、公的介護では要介護者に対してはできうる限り居宅介護サービスで対応を検討し、施設介護サービスは重度の要介護者に集中して提供する。そして、私費負担をしてでも施設介護サービスを望む要介護者には介護付高齢者住宅や有料老人ホームへの入居といった民間介護施設サービスの選択の余地を残すといった姿である。このような将来シナリオを考慮すると、療養病床の転換には、老人保健施設や特別養護老人ホーム等公的施設のみならず、有料老人ホームや医療・介護付高齢者住宅など民間(私費)介護施設サービスも視野に入ってくる。転換の選択肢も広がり、地域ニーズにより柔軟な対応ができるであろう。米国では、民間介護施設サービスは、専門のREIT企業も誕生するほど大きなビジネスセクターに成長している。療養病床の再編は、日本の民間介護福祉施設サービスが新たな成長を遂げる契機となろう。企業にとっては新たなビジネスチャンスの到来である。すでに、医療・介護付高級レジデンスの広告が目につき始め、芸能人など著名人の終身型高齢者住宅が話題となり始めている。介護福祉関連ビジネスの視点からも、今後の医療改革の進展状況には注目をしていく必要がありそうだ。

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