巨額追徴課税は続くのか

RSS

2006年07月07日

1,223億円。あまりの額の大きさに驚いた人も少なくないだろう。武田薬品工業が、6月28日に、大阪国税局から移転価格税制(※1)により更正処分(申告した所得金額の修正)を受けた所得金額である。あくまでも過去6年間の取引の合計であるが、追加納付すべき税額は約570億円にのぼるという(武田薬品工業の発表)。その2日後には、ソニー、マツダ、三井物産などが同種の処分を受けており、次はどこかと警戒するむきもあるだろう。

しかし、7月以降、移転価格税制による更正処分が続く可能性は低い。というのも、一連の処分が6月末に集中したのは、税務当局による更正処分の期限が関係していると考えられるためである。法人税の申告期限は原則として事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内、上場企業のように監査との関係で決算が確定しない場合には、さらに1ヶ月延長が認められる。つまり、3月決算の上場企業の場合、法人税の申告期限は6月末となる。一方、税務当局による移転価格税制に関する更正処分は、法人の法定申告期限から6年間とされている。このため、更正処分を行うタイミングが6月末となることが多いわけだ。昨年のTDKやソニー(ソニーは昨年も更正処分を受けた)、一昨年のホンダも処分を受けたのは6月であった。もはや、恒例行事になりつつある。

なぜ、こうも移転価格税制による更正処分が相次ぐのか。日本企業のグローバル化が影響していることは勿論のこと、製造技術や特許、ブランドといった価値の算定が難しい無形資産等の取引が増加していることも無視できないだろう。移転価格税制においては、無形資産に関する取引価格の算定方法が必ずしも確立されておらず、従って、来年も税務当局による更正処分が繰り返されることは十分に予想できる。

税務当局の指摘するところが、国外で申告する所得が多く日本国内での所得が少ない、つまりは「国家間の所得配分」を問題にしているのであれば、処分を受けた企業が相互協議(※2)を申し立てれば、企業グループとしての影響は軽微なものに留まるだろう。しかし、移転価格税制に関して税務調査が入った場合、調査期間は一般の税務調査よりも長期に及ぶといわれているし、対応する企業側の人的資源も無視できない。近年の事例では、更正処分を受けた企業のほとんどが当局の指摘に対し異議申立て等を行っており、企業側・税務当局双方にとって不幸な結果となっている。移転価格税制のさらなる進化が待たれる。

(※1)移転価格税制とは、海外の子会社などの国外関連者との間の取引が、独立第三者との通常の取引価格(独立企業間価格)と異なる価格で行われた場合に、その取引価格(移転価格)を独立企業間価格に引き直した上で、課税所得の再計算を行う制度である。国外関連者との取引価格を独立企業間価格よりも高く(又は低く)設定することにより、本来、日本国内で実現するはずの所得が国外に移転するのを防止することを目的とする。

(※2)相互協議とは、国際的な二重課税が生じた場合に、関係国の税務当局同士が協議を行う、租税条約に基づく措置である。相互協議により税務当局間で合意に至った場合には、いずれかの課税当局が課税所得金額を減額することとなり、既に納付した税金が還付されることとなる。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。