預金が集らなくなる?

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2006年07月05日

日銀の量的緩和政策が終結し、ゼロ金利政策もまもなく解除される方向である。市場では、これらの政策変更を先取りして国債の利回りも上昇してきている。例えば、2年物は0.9%、5年物は1.5%程度である。

これに対して、預金金利は2年物0.2%、5年物0.4%程度が一般的である。つまり、国債と預金の金利差は2年物で0.7%、5年物で1.1%ということである。100万円の資金で、年間7千円とか1万1千円とかの差になるのである(税引き前ベース)。

このような状況で、個人はどちらの選択肢を選ぶであろうか。確かに、中途解約すると、国債(個人向け国債は除く)は元本が保証されるわけではない。また、今まで預金に馴染んだ個人が行動様式を変えるには時間がかかるのかもしれない。

しかし、インターネットやメディアなどの発達により、これだけ情報伝達が行き渡ってくると、意外と早いタイミングで、より有利な資産運用についての理解が個人にも広まってくる可能性がある。少し観点が違う事例ではあるが、手数料の安いネット証券の利用は、思った以上のスピードで個人へと広まっていった。いずれにしても、普段出し入れする普通預金はともあれ、定期預金は集らなくなってくるかもしれない。

投資信託や保険の窓販好調も、預金取り崩しに拍車をかける。銀行は投資信託や保険の販売で収益を大きく伸ばしてきているが、その資金は基本的には個人預金からのシフトによってまかなわれているからである。また、郵政公社による投信販売の本格化で、郵便貯金の減少を民間銀行の預金取り崩しで穴埋めするような動きが出てくる可能性もあろう。

米国と日本の個人金融資産の構成を比較しても、日本の預金偏重が目立つ。
日本は全体の55%が預金で、投信3%、債券3%であるのに対し、米国は預金13%、投信12%、債券8%となっている。また、比較的日本と国民性が似ているドイツとの比較でも、ドイツが預貯金1:有価証券1なのに対し、日本は4:1となっている。

仮に預金が集っても、低コスト(低金利)の普通預金から高コスト(高金利)の定期預金にシフトしていくことが想定される。ここ数年の低金利で、普通預金も定期預金も預金金利は変わらない状況が続いていた。また、ペイオフ解禁の混乱もあって、現在、普通預金には資金が必要以上に滞留している。しかし、ゼロ金利が解除され、ペイオフ問題も一段落している状況では、普通預金から少しでも金利の高いものへと資金移動があると考えるのが自然であろう。

銀行は、ここ数年の特殊な環境下で、しばらく預金獲得の重要性を忘れていたかもしれない。しかし、低コスト預金の獲得が銀行の利益の源泉であることを再認識すべきである。また、中長期的には、低コスト預金を獲得できなくなるリスクも、頭の片隅に入れておくべきであろう。

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