再考!国内債券投資

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2006年06月26日

  • 大藤 康博
我が国の企業年金の昨年度運用利回りは、国内外株式の上昇により平均的には20%前後となり、過去最高水準を記録した。2003年以降、それまでの3年連続マイナス利回りから一転し、2005年度までの3年間の累積で45%近い伸び率となった。しかしながら、4月以降米国の利上げ打ち止め期待が遠のいたことやこれまで急激に上昇した反動から、世界的な株価下落により、足元では▲5%前後で推移しているものと思われる。

この間、歴史的な低金利が続く中、景気回復の兆しが鮮明となったことに伴い、先行きの金利上昇懸念から、企業年金では国内債券投資について見直しを行う動きが加速している。その多くは国内債券の代替として、ヘッジファンドや不動産投資などいわゆるオルタナティブ資産や変動利付国債や物価連動債券といった金利上昇対応商品の組み入れを行っていることが一般的だ。当初、この代替投資の割合は国内債券投資全体の一部に留まっていた。しかし、昨年後半から先行きの金利上昇観測が高まってきたことや運用機関サイドからのヘッジファンドを中心とした債券代替資産の販売攻勢も強まったこともあり、企業年金間で差異はあるが、定めた国内債券の投資比率の過半を代替資産にシフトしている先も散見されている。

債券投資は、金利が上昇すればその収益率は低下するものの、株式や外貨建資産と比してそのリスクは小さい。仮に来年3月末長期金利が1%上昇したとしても、債券のトータルリターンは概ね▲4%である。企業年金の平均的な国内債券の組み入れ比率は35%であることから、資産全体への影響は▲1.5%程度となる。その一方で、債券投資を継続的に実施していれば、金利上昇のスピードにも左右されるが、再投資効果(満期償還分から新発債へのシフト)などにより、インカムゲインの増加もあり、利回りの改善は緩やかに進むことが想定される。このように債券投資の意義は、そのリスク特性や着実なインカムゲインの積み上げを期待し、長期運用を旨とする企業年金運用の中核的な位置付けとされてきた。

加えて株式や外貨建資産との相関も考慮され、分散投資資産の一翼も担ってきたことは言うまでもない。1985年~2005年の21年間で国内株式がマイナスの収益率となった年度は9回あるが、この内の8年では国内債券はプラスの利回りを確保し、資産全体の利回り低下を抑制したことを勘案すれば、その投資意義の重要性を再認識できる(因みに当該21年間での平均的な年間収益率は国内株収益率3.51%、国内債券は4.79%)。

このように債券投資は、短期的に見れば厳しい局面も予測されるが、企業年金運用の中核的な位置付けは不変であり、欧米の企業年金では将来の年金給付にマッチングさせる資産として、これまで以上に着目を集めている。我が国の企業年金においても、年金の積み立て不足問題の解決に道筋が見え、今後年金給付の増加が見込まれる状況下、ヘッジファンドなど過度に債券から代替資産へのシフトすることは慎重に対処し、債券投資の意義について再考することが求められているものと考える。

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