少子化問題はどこへ行く?

RSS

2006年06月21日

  • 古頭 尚志
連日のように少子化問題を扱う報道がなされている。昨年の合計特殊出生率(※1)が過去最低の1.25を記録したこと、出生数と死亡数の差を示す自然増加数が初のマイナス(-2万1408人)になったことなど、深刻さが目に見えて増しており、関心が高まっているのであろう。

政府・与党だけでも複数の委員会組織が様々な観点から議論を重ねている。その結果、話題には事欠かないわけだが、翻って見ればそれだけこの問題の根は広く深いということである。論点も多岐にわたっているが、中心となる20代・30代の世帯にとって最も切実なのは経済面ではなかろうか。「1人よりは2人、2人よりは3人」と子どもを望む家庭はあっても、「それでやっていけるのか」「十分な教育を受けさせることができるのか」という不安が障害となり、躊躇せざるを得ないのが実態だろう。

「金を出すから子どもを増やせというのはいかがなものか」、そんな意見も耳にするが、子どもを欲しいと考える世帯にとっては間違いなく歓迎すべき施策である。国家の存亡に直結するテーマであり、景気対策とは性格が違うのだから、子どもが欲しいと考えている世帯をピンポイントで支援する内容であっても公平性の点で問題はなかろう。また、何ら強制するものではないのだから倫理的な問題も生じないのではないか。

そう考えると、新たに子育てに加わる世帯や子育て中の世帯、とりわけ経済面での不安が強いと思われる低~中所得世帯にとって意味のあるものにしなければならない。少子化対策税制を例にするならば、高所得者に有利なN分N乗方式(※2)の導入は適切ではないし、現状で非課税となる低所得世帯にメリットのない扶養控除の拡大(※3)も対策としては弱い。では、新たな税額控除を創設する案はどうだろう。扶養控除拡大論と同様の問題を含んではいるが、子どもの人数等に連動した定額控除とし、控除する税額がない場合には同額を給付(控除し切れない場合は差額を給付)する方法をとればこの点はクリアできよう。よって、実務上の手続きを抜きにしてシンプルに考えれば、このような定額保証タイプの税額控除制度の創設が好ましいと考えられる(※4)

合計特殊出生率が1.08(暫定値)となった韓国では、2010年度までに約4兆円を投じる少子化対策案を発表したという。日本の苦しい台所事情は分かるが、税制以外の施策も含めた幅広い支援策を早急に講じること、限られた財源を少子化対策としての効果が期待できる世帯に適切且つ集中的に配分することが望まれる。

(※1)15~49歳の女性の年齢別出生率を合計したもので、1人の女性が一生に生む子どもの数を示す統計値とされる。

(※2)単純化すると、家族全員の所得の合計額を家族人数で割り(N分)、所定の税率を適用し、算出された税額に家族人数をかけて納税額を求める(N乗)方式である。超過累進税率を採用する課税制度の下では、N分前に比べより低い税率が適用されることになり、減税効果が期待できる。フランスで実施され、成果を上げている。しかし、日本ではそもそも最低税率が適用される納税者の割合が高いため、支援すべき低~中所得世帯に対する減税効果はあまり期待できない。

(※3)現在の扶養控除は、所得税の場合で子1人当たり38万円(16歳から22歳までの子については63万円)の所得控除である。最近では、成人したニート、フリーターにも適用されている点が問題視されている。

(※4)新聞各紙の報道によれば、扶養控除を縮小し、子どもの数に応じた税額控除を創設する方向で議論を進めるようである。なお、財源については未だ明示できる状態ではなく、年末に向けて調整を進めていくという。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。